第41話 ベビーブーム到来!『ダンジョン保育園』を作ったら、お遊戯会が怪獣大戦争になった
衣食住、娯楽、治安。すべてが満たされたダンジョン国に、新たな波が押し寄せていた。
ベビーブームである。
豊かな食生活と、安全な住環境。将来の不安がなくなったことで、住民たち(特にオークやゴブリン、ドワーフたち)の間に空前の出産ラッシュが起きていたのだ。
「……マスター。相談があります」
朝の執務室。建築班のリーダーであるオーク・ジェネラルが、作業着姿でやってきた。その背中には、小さなオークの赤ちゃんが「おんぶ紐」で括り付けられている。
「どうした? 資材が足りないか?」
「いえ。……仕事はしたいのですが、嫁も私も育児で手一杯でして。現場に子供を連れていくわけにもいかず、人手が足りていないのです」
見れば、農作業中のエルフたちも、背中に赤ん坊を背負いながら魔法を使っている。
これでは作業効率が落ちるし、何より危険だ。
「なるほど。待機児童問題か」
俺は頷いた。 国が成熟すれば、必ず通る道だ。
「よし。作ろう。『国立ダンジョン保育園』を」
◇
建設場所は、居住区の一等地。
俺は管理者権限をフル活用し、最強のセキュリティを誇る施設を作り上げた。
壁は衝撃吸収の『スライム・コーティング』。
床は転んでも痛くない『高反発モス(苔)』。
家具の角はすべて丸く削り、素材は齧っても壊れないオリハルコン製だ。
「園長はノエル、お前に頼む」
「ええっ!? 私ですか!?」
保健室の先生兼アイドルである元聖女ノエルが、目を白黒させる。
「お前なら治癒魔法が使えるし、子供受けもいい。適任だろ」
「うぅ……頑張りますけど……」
こうして保育園は開園した。
だが、初日から現場は阿鼻叫喚となった。
「ギャオオオオオンッ!!(ママがいいぃぃ!)」
「キシャーッ!!(ミルクよこせぇぇ!)」
集まったのは、ただの赤ん坊ではない。
オーク、ゴブリン、エルフ、さらにはドラゴンの幼生体までいる『魔物の子供たち』だ。
彼らの「夜泣き」は物理攻撃(衝撃波)であり、『癇癪』は魔法攻撃だった。
「きゃあああ! ドラゴンちゃんが火を吹きましたー!」
「オークちゃんが積み木(オリハルコン製)を投げて壁を壊しましたー!」
ノエル先生と、手伝いのサキュバスたちが悲鳴を上げて逃げ回る。
保育園というより、怪獣映画の撮影現場だ。
「……やれやれ。やはり普通の保育士じゃ無理か」
視察に来ていた俺は、ため息をついた。 力には力を。怪獣には魔王を。
「おい、ヴェルザード。出番だ」
「断る」
昼寝をしていた魔王が即答する。
「私はアイドルの仕事で忙しいのだ。子守など……」
「報酬は『季節限定・プレミアム苺大福』だ」
「……」
魔王がむくりと起き上がった。
「……子供の未来を守るのも、王の務めだな。仕方ない」
◇
魔王の参戦により、状況は一変した。
「――静まれ」
ドォォォォン……ッ!
魔王が覇気を放つと、暴れていた怪獣(園児)たちがピタリと泣き止んだ。
恐怖ではない。圧倒的な「格」の違いを本能で悟ったのだ。
「いいか、幼き者たちよ。強者とは、むやみに力を振るわぬものだ。ミルクが欲しければ、礼儀正しく列を作れ」
魔王が指を鳴らすと、宙に浮いた哺乳瓶が、整列した赤ちゃんドラゴンの口にスポッとはまった。
「す、すごい……! あんなに暴れていた子たちが……!」
ノエルが感動している。
さらに、俺は「遊び場」にもテコ入れをした。
「砂場が狭い? なら、これでどうだ」
俺は空間魔法で、園庭の一角を拡張した。
出現したのは、見渡す限りの『砂漠エリア』。
「滑り台がつまらない? なら、これだ」
第80階層の海から引いた水を使い、高さ50メートルの『ウォータースライダー(滝)』を設置。
「キャッキャッ!(たのしー!)」
園児たちは大喜びで砂漠を駆け回り、滝を滑り降りる。
その体力と身体能力は、すでに王国の騎士団を超えているかもしれない。
◇
夕方。お迎えの時間。
「パパ! ママ!」 「おお、いい子にしてたか!」
仕事を終えた親たちが、我が子を抱きしめる。
その光景を見て、俺は満足げに頷いた。
「これで労働力不足も解消だな」
「ええ。……でも、ディラン」
隣で苺大福を頬張っていた魔王が、ふと呟いた。
「あいつらが成長したら、この国はどうなるのだ? ドラゴンのブレスを吐き、エルフの魔法を使い、オークの怪力を持つ新世代だぞ」
「……さあな。世界征服でもさせるか?」
「ふん。私とお前の英才教育を受けた子供たちだ。世界の一つや二つ、遊び場にしてしまうだろうな」
魔王が楽しそうに笑う。
ダンジョン保育園。そこは、未来の「最強世代」を育む、世界で一番危険で賑やかな揺りかごとなった。
(第41話 終わり)




