第40話 『消防団』と『自警団』を結成したら、火事ごと家を水没させ、泥棒が恐怖で自首する街になった
ダンジョンの人口増加に伴い、新たな問題が浮上していた。 それは『火災』と『犯罪』のリスクだ。
木造建築も増えたし、酔っ払ったドワーフが暴れることもある。 転ばぬ先の杖。俺は二つの組織を立ち上げた。
「まずは『ダンジョン消防団』だ」
俺が任命したのは、水を司る上位精霊たちと、水属性のドラゴンだ。
「火を見たら即座に消す。それがお前たちの任務だ」
「お任せください、マスター。一滴の種火も残しませんわ」
リーダーのウンディーネが優雅に微笑む。 頼もしい限りだ。
◇
数時間後。 料理教室で、ボヤ騒ぎが起きた。 新米のエルフが、フライパンの油に火を引火させてしまったのだ。
「きゃあ! 火事よー!」
「直ちに消火しますわ!」
消防団が現場に急行した。 そして、彼女たちは躊躇なく『全力』を出した。
「――【大瀑布】!!」
ズドォォォォォォン!!!
消防車などという可愛いものではない。 ダムが決壊したような大量の水が、キッチンを……いや、建物ごと飲み込んだ。
「ぶくぶくぶく……!」
「火は消えましたが、家が流されましたわ!」
水が引いた後には、ずぶ濡れのエルフと、綺麗さっぱり洗い流された(更地になった)キッチンが残っていた。
「……やりすぎだ! 初期消火に戦略級魔法を使うな!」
俺の説教に対し、彼女たちは「でも、完全に消えましたわ?」と首をかしげていた。 以来、住民たちは「火事を出したら家ごと流される」という恐怖から、火の用心を徹底するようになった。
◇
次は『ダンジョン自警団』だ。
「隊長は任せたぞ、ザイン」
「……了解」
暗殺者ザインをトップに据え、配下には『ガーゴイル(監視カメラ役)』と『ミミック(トラップ役)』を配置した。
ある日。 王国のスパイが、農作物を盗もうと畑に侵入した。
「へへへ、この『光る大根』を盗めば大金持ちだ……」
スパイが手を伸ばした瞬間。
ギロリ。
街灯の上にいた石像の目が赤く光った。 同時に、足元の地面から無数の手が伸びる。
「ひぃっ!?」
「――確保」
いつの間にか背後に立っていたザインが、スパイの首元にナイフを当てていた。
「ゴミのポイ捨て、立ち小便、窃盗。すべて監視済みだ。 ……罪の重さを選べ。『強制労働』か、『魔王様のおやつ(恐怖)』か」
「労働で! 労働させてくださいぃぃ!」
スパイは泣きながら連行された。
さらに恐ろしいのは、街中に配置された「ミミック」だ。 ベンチだと思って座ったら噛みつかれ、ゴミ箱だと思って捨てたら舌で巻き取られる。
「この街、油断できねぇ……!」
「悪いことしようとした瞬間、殺気を感じる……!」
こうして、ダンジョンの犯罪発生率は驚異の0%を記録した。 (※ただし、軽犯罪でも即座に捕まるため、刑務所の定員は常に満杯である)
◇
「平和だな」
俺はリビングでコーヒーを飲みながら、窓の外を見た。
街では、ガーゴイルがパトロールし、ウンディーネが水撒き(という名の洪水予行演習)をしている。 一見するとディストピアだが、住めば都だ。
「……そういえばディラン。私のプリンを食べたのはお前か?」
背後から魔王の声。
「い、いや? 知らないぞ?」
「嘘をつくな。ザインの報告書に『ディラン様が冷蔵庫を開けていた』と記録があるぞ」
「身内まで監視してるのかよ!?」
この国では、王(俺)ですら、完全なプライバシーはないらしい。 俺は冷や汗を流しながら、魔王に土下座して許しを乞うのだった。
(第40話 終わり)




