第39話 職人たちの祭典『ダンジョン即売会』を開催したら、伝説級の魔剣や野菜が投げ売りされる事態になった
ダンジョンの生活が安定し、職人たちの技術は日々向上している。
だが、彼らには不満があった。
「俺の打った剣は世界一だが、誰も評価してくれねぇ!」
「私の育てた『光る大根』の美しさを、もっと世に広めたいわ!」
クリエイターとは、常に飢えている生き物だ。 賞賛に、評価に、そして「売上」に。
「よし、分かった。場所を用意しよう。 思う存分、自分の作品を見せびらかして、好きな値段で売ればいい」
俺は、ダンジョン第一層の大広間を開放した。 名付けて、ものづくり博覧会――通称『ダン・フェス』の開催だ。
◇
当日。 会場は、開場前から長蛇の列(待機列)ができていた。 冒険者、商人、そして噂を聞きつけた王国の貴族たちだ。
「開門!!」
俺の合図と共に、怒涛の人の波が押し寄せた。 彼らの目当ては、各エリアの「限定品」だ。
【鍛冶・工芸エリア(サークル主:ドワーフ工房)】
「いらっしゃい! 今日の目玉はこれだ!」
ガルド親方が掲げたのは、刃が高速回転する禍々しい大剣。
「名付けて『チェーンソー・ブレード』! ドラゴンの鱗も紙のように切り裂くぞ! 今ならセットでメンテナンス油もつける!」
「す、すげぇぇぇ!」
「買った! 言い値で買う!」
冒険者たちが札束を持って殺到する。 地上なら国宝級の魔剣が、ここでは「新刊」のようなノリで飛ぶように売れていく。
【農業・食品エリア(サークル主:エルフの森)】
「見て見てー! 今朝採れたての『マンドラゴラ大根』よー!」
エルフたちが並べたのは、ピカピカに輝く野菜たちだ。
「食べると魔力が全回復して、お肌もツルツル! ただし、抜く時に悲鳴を上げるから耳栓をしてね!」
「貴婦人の皆様! 美容液より効くわよ!」
こちらは女性客の戦場だ。 「最後の一つよ!」「私が先に手を伸ばしたわ!」と、野菜を巡ってキャットファイトが起きている。
◇
そして、最大手サークル(壁サークル)はここだ。
【魔道具・研究エリア(サークル主:大賢者ソフィア)】
「ふふふ……。科学と魔法の融合、とくと見なさい」
ソフィアがドヤ顔で並べたのは、生活を一変させる魔道具の数々だ。
「まずは『自動掃除ゴーレム・ルンバちゃん』。 そして『全自動宿題代行ペン』。 極めつけは……『推し活専用・高画質ブロマイド印刷機』よ!」
「「「神か!!!」」」
会場が揺れた。 特に『宿題代行ペン』には、子供たちが小遣いを握りしめて列を作り、『ブロマイド印刷機』には、魔王やアイドルの写真を求めるファンが殺到した。
「並んで! 列を乱さないで! 最後尾はあちらです!」
スタッフ役のオークたちが必死に誘導する。 この熱気、まさに戦場。
◇
そんな中、会場の隅でガタガタ震えている男たちがいた。 王国のスパイだ。
「……報告します。ここは地獄です」
彼らは目の前の光景を信じられないといった顔で見つめている。
「伝説のミスリル剣が、露店で叩き売りされています……」
「不老不死の妙薬(エルフ野菜)が、籠盛りで安売りされています……」
「この国の技術力は……あと百年経っても追いつけません……!」
彼らは、お土産に買った『チェーンソー・ブレード』を抱え、「これを持って帰れば昇進間違いなしだ」と涙を流して帰っていった。
◇
夕方。 祭りの後。
「ふはははは! 完売だ! 在庫が全部なくなったぞ!」
「見てこの売上! 次の肥料がたくさん買えるわ!」
職人たちは、空になった陳列棚と、山のような売上金を見て充実感に浸っていた。 自分の作ったものが認められ、求められる喜び。 それこそが、ものづくりの原動力だ。
「……ディラン。次は冬にやるぞ。 『冬のダン・フェス』に向けて、新刊(新作)を準備せねば」
ソフィアが目を血走らせて宣言した。 どうやら彼女も、「締め切りに追われる愉悦」に目覚めてしまったらしい。
こうして、ダンジョンは年に二回、世界中からバイヤーが集まる「技術見本市」としての地位を確立したのだった。
(第39話 終わり)




