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第37話 魔王が目立ちすぎて『正ヒロイン』の座が危ないので、初代相棒(アリシア)がデート対決を挑んだ

 平和な昼下がり。 リビングでコーヒーを飲んでいると、バンッ! とテーブルを叩く音がした。


「……納得いきません!」


 聖騎士アリシアが、涙目で訴えてきた。


「どうした、アリシア。また鎧がきつくなったか?」


「違います! 最近、ディラン様の隣にいるのが、いつも魔王様なことです!」


 確かに。 最近はカジノの経営や映画撮影で、ヴェルザードと行動することが多かった。


「私はディラン様の『最初の剣』です! 一番の相棒です! なのに、最近の国民アンケートで『お似合いのカップルランキング』の1位が、ディラン様と魔王様になっているなんて……!」


「ほう。国民もよく見ているな」


 余裕の笑みで現れたのは、当の魔王ヴェルザードだ。 彼女は俺の隣に自然に座り、俺のカップからコーヒーを一口飲んだ。間接キスを全く気にしていない。


「悔しいか、小娘。だが、ディランの隣に立つのは、同じく王である私が相応しい」


「むきーっ! その余裕が腹立ちます! ……勝負です! 今日一日、どちらがディラン様を『ドキドキ』させられるか、デートで決着をつけましょう!」


 こうして。 俺を審判ターゲットにした、正ヒロイン決定戦が勃発した。


 ◇


【先行:聖騎士アリシアのターン】


「ディラン様、あーんしてください♡」


 場所は、新しくできたカフェのテラス席。 アリシアは「新妻エプロン(なぜ着替えた?)」を身につけ、手作りのお弁当を広げていた。


「ほら、ディラン様の好きな唐揚げですよ。私が朝から揚げたんです」


 彼女が箸で摘んで、俺の口元に運んでくる。 その表情は、慈愛と献身に満ちていた。 長年連れ添ったパートナーだからこそ出せる、安心感と包容力。


「……うん、美味い。やっぱりアリシアの料理は落ち着くな」


「えへへ……。胃袋を掴むのが、正ヒロインの嗜みですから」


 アリシアが得意げに魔王を見る。 「家庭的な魅力」でのポイント稼ぎだ。


 ◇


【後攻:魔王ヴェルザードのターン】


「……ふん。餌付けなど、安直な手だ」


 ヴェルザードは鼻で笑うと、俺の手を強引に引いた。


「行くぞ、ディラン。……映画だ」


 連れてこられたのは、映画館の「カップルシート」。 薄暗い密室。隣には、香水をほのかに香らせた絶世の美女。


 映画(恋愛モノ)が始まり、ロマンチックなシーンになると、ふいにヴェルザードの肩が俺に触れた。


「……おい」


「ん?」


「……その、なんだ。……こういう時は、手を繋ぐのが作法なのだろう?」


 暗闇の中で、魔王の赤い瞳が潤んで見えた。 普段の傲岸不遜な態度とは違う、しおらしい上目遣い。


 俺が手を重ねると、彼女の指先は微かに震えていた。 最強の魔王が、ただの手繋ぎで緊張している。


(……これは、破壊力が高いな)


 俺の心臓が少し跳ねた。 「ギャップ萌え」というやつだ。


 ◇


【結果発表】


 夕方。 俺たちは噴水広場に集まった。


「さあディラン様! どちらが良かったですか!?」


 アリシアが詰め寄る。 ヴェルザードも、そっぽを向いているが耳がこっちを向いている。


「……そうだな」


 俺は困って頭を掻いた。


「アリシアとの時間は『安心』した。 ヴェルザードとの時間は『刺激』があった。 ……どっちも捨てがたいな」


「ええーっ! どっちつかずです! ヘタレです!」


「ふん。まあ、引き分けということにしておいてやる」


 ヴェルザードは強がっているが、その頬はほんのりと赤い。


「だが、覚えておけ小娘。 私は欲しいものは力ずくでも奪う主義だ。……そのうち、彼の心も『侵略』してやる」


「望むところです! 正ヒロインの座は渡しません!」


 バチバチと火花を散らす二人。 どうやら、俺の平穏な生活は、恋愛面でも波乱の予感がしてきたようだ。


 ちなみに、その様子を遠くから見ていたソフィア(大賢者)が、 「……あらあら。二人とも必死ね。 まあ、最終的にディランの研究パートナー(伴侶)になるのは、知的な会話ができる私でしょうけど」 と、一人勝ちを確信して余裕の笑みを浮かべていたことは、まだ誰も知らない。


(第37話 終わり)

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