第36話 子供たちのために『職業体験テーマパーク』を作ったら、将来の夢が『魔王』一色になってしまった
ダンジョンの人口が増え、子供たちの数も増えてきた。
学園での勉強も大事だが、将来のために「社会の仕組み」を知ることも重要だ。
「よし。今日は授業を変更する。 『ダンジョン・ワークランド』の開催だ!」
俺の宣言により、体育館(巨大コロシアム)が、即席のパビリオン会場へと変貌した。
ここには、我が国の主要な職業を体験できるブースが並んでいる。
子供たちは目を輝かせて、自分の興味のある仕事場へと走っていった。
◇
【騎士・冒険者ブース】
「いいか、剣というのはこう構えるんだ!」
剣聖レオンと聖騎士アリシアが、子供たちに模擬剣(ウレタン製)を持たせて指導している。
男の子たちは興奮気味だ。
「うおお! 俺、レオン様みたいになる!」
「私もアリシアお姉ちゃんみたいに、強くて可愛くなるの!」
ここは順調だ。 正義感と体力を養う、健全な教育現場である。
【農業・生産ブース】
「土というのは正直なんじゃ。愛情を込めれば、美味しい野菜が育つぞ」
ドワーフのガルド親方と、エルフたちが野菜作りやモノ作りを教えている。
子供たちは泥だらけになりながら、巨大なカブを抜いたり、トンカチで工作をしたりしている。
「自分で作った野菜、甘ーい!」
「モノ作りって楽しい!」
ここも素晴らしい。 生産の喜びを知ることは、国の豊かさに直結する。
◇
問題は、ここからだ。
【カジノ・商業ブース】
「いいですか、ボウヤたち。お金というのは、寂しがり屋なんです」
敏腕商人ベルンが、子供たちに札束を数えさせていた。
「だから、お金のあるところに、さらにお金が集まってくるんです。これを『複利』と言います」
「ふくり? よくわかんないけど、お金がいっぱいだと嬉しい!」
「そうです。世の中、金が全て……とまでは言いませんが、9割は金で解決できます」
……おい、教育に悪いことを教えるな。 子供たちの目が、円マークになっているぞ。
そして、極めつけがこれだ。
【統治者(魔王)ブース】
一番奥に設置された、豪華な玉座のセット。 そこに座っているのは、魔王ヴェルザードだ。
「おねーちゃん、これなんの仕事?」
子供が尋ねる。 ヴェルザードは足を組み、ポテトチップスを食べながら答えた。
「『支配者(魔王)』だ」
「どんなことするの?」
「基本的には、ふかふかの椅子に座って、部下からの報告を聞き、ハンコを押す。 あとは、好きな時にオヤツを食べ、気に入らない奴がいれば魔法で消し飛ばす」
「えっ」
子供たちがざわついた。
「汗をかいて剣を振る必要もない。泥だらけになって働く必要もない。 ただ『偉そうにしている』だけで、最高級の肉と菓子が献上される。 ……どうだ? 素晴らしい仕事だろう?」
その言葉に、子供たちの瞳に衝撃が走った。
「すげえ……! 働かなくていいんだ!」
「私、魔王になる! お姫様より楽そう!」
「俺も! 俺も偉そうにしてオヤツ食べる!」
魔王ブースに長蛇の列ができた。 騎士ブースや農業ブースから、子供たちが一斉に流れてくる。
「ちょっ、待てお前ら! 剣の道はどうした!」
「野菜作りも楽しいぞ!? 戻ってこーい!」
レオンやガルド親方の叫びも虚しく、子供たちは「楽して稼げる支配者」の魅力に取り憑かれてしまった。
◇
イベント終了後のアンケート集計。
『将来なりたい職業ランキング』
1位:魔王(80%) 2位:カジノオーナー(15%) 3位:騎士・冒険者(5%)
「……どうするんだこれ」
俺は頭を抱えた。 このままでは、数年後には「働きたくないでござる」というニート予備軍と、世界征服を企む野心家ばかりの国になってしまう。
「ふふん。やはり私のカリスマ性は隠しきれんな」
ヴェルザードだけが、満足そうに鼻歌を歌っていた。
なお、後日。
「魔王になるためには、誰よりも勉強して魔法を覚えなきゃなれないんだぞ」と教えたところ、子供たちが必死に勉強を始め、結果的に学力が爆上がりしたのだった。
(第36話 終わり)




