第34話 娯楽の終着点『映画館』を作ったら、魔王の過去編が大ヒットして全米(ダンジョン)が泣いた
コンサートの大成功により、ギルバートという本物の芸術家を得た我が国。
音楽の次は、視覚と物語の融合……すなわち「映画」だ。
「……映画、ですか?」
ソフィアが首を傾げる。
この世界にはまだ、動く写真という概念が存在しない。
「ああ。水晶玉の映像記録魔法と、幻影魔法を組み合わせれば、スクリーンに物語を投影できるはずだ」
俺の提案に、ソフィアとギルバートが食いついた。
「なるほど! 光の屈折率を調整して、音声を同期させれば……!」
「素晴らしい。私の紡ぐ物語が、目に見える形で残せるのですね……!」
技術班と芸術班がタッグを組み、開発が始まった。
◇
数日後。
カジノエリアの一角に、赤絨毯が敷かれた重厚な建物『ダンジョン・シネマ』が完成した。
記念すべき第一作目の上映作品。
監督は俺。脚本はギルバート。
そして主演は――魔王ヴェルザードだ。
タイトルは『魔王降臨 ~孤独な少女が覇王になるまで~』。
ブーッ。
開演のブザーが鳴り、照明が落ちる。
満員の観客たちが、手に持ったポップコーンとコーラを握りしめる。
スクリーンに映し出されたのは、千年前の魔界。
まだ幼く、力も弱かったヴェルザードが、過酷な環境で生き抜き、仲間との別れを経験し、やがて最強の力に目覚めるまでの壮絶な叙事詩だ。
「……うっ、ううっ……」
「魔王様……そんな過去が……」
客席のあちこちから、すすり泣く声が聞こえる。
特に、彼女の幼少期を演じたルナ(子役)の演技が光っていた。
そしてクライマックス。
覇王となったヴェルザードが、孤独な玉座で呟くシーン。
『……私は全てを手に入れた。だが、なぜこんなにも寒いのだろう』
そのセリフに、ギルバートの奏でる悲哀のテーマ曲が重なる。
完璧なカタルシス。
エンドロールが流れ、館内が明るくなっても、拍手は鳴り止まなかった。
「ブラボー! ブラボー!」
「魔王様、一生ついていきます!」
スタンディングオベーションだ。
最前列で見ていたヴェルザード本人は、ポップコーンのバケツを抱えながら、顔を真っ赤にしていた。
「……恥ずかしい。昔の古傷を抉られるような気分だ」
「いい映画だったじゃないか。お前の好感度、爆上がりだぞ」
俺が茶化すと、彼女はふんと鼻を鳴らした。
「……次はコメディがいい。私がバナナの皮で滑って転ぶようなやつだ」
「それはそれでウケそうだな」
◇
この映画の大ヒットにより、ダンジョンには新たなブームが到来した。
エルフたちは「私たちも恋愛映画を撮りたい!」と脚本を書き始め、ドワーフたちは「プロジェクトX(巨大建築ドキュメンタリー)」を撮り始めた。
さらには、噂を聞きつけた王国の売れない劇作家や画家たちが、「ここでなら、自分の作品を認めてもらえるかもしれない」と、続々と亡命してきたのだ。
かつて「魔物の巣窟」と呼ばれたダンジョンは、今や世界最先端の「芸術の都」へと変貌を遂げていた。
一方、王国では。
娯楽といえば「公開処刑」くらいしかなく、民衆の心は荒みきっていた。
彼らがダンジョンの映画(海賊版)をこっそり入手し、隠れて鑑賞会を開くようになるまで、そう時間はかからなかった。
(第34話 終わり)




