表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/39

第34話 娯楽の終着点『映画館』を作ったら、魔王の過去編が大ヒットして全米(ダンジョン)が泣いた

 コンサートの大成功により、ギルバートという本物の芸術家を得た我が国。


 音楽の次は、視覚と物語の融合……すなわち「映画」だ。


「……映画、ですか?」


 ソフィアが首を傾げる。


 この世界にはまだ、動く写真という概念が存在しない。


「ああ。水晶玉の映像記録魔法と、幻影魔法イリュージョンを組み合わせれば、スクリーンに物語を投影できるはずだ」


 俺の提案に、ソフィアとギルバートが食いついた。


「なるほど! 光の屈折率を調整して、音声を同期させれば……!」


「素晴らしい。私の紡ぐ物語が、目に見える形で残せるのですね……!」


 技術班と芸術班がタッグを組み、開発が始まった。


 ◇


 数日後。


 カジノエリアの一角に、赤絨毯が敷かれた重厚な建物『ダンジョン・シネマ』が完成した。


 記念すべき第一作目の上映作品。


 監督は俺。脚本はギルバート。


 そして主演は――魔王ヴェルザードだ。


 タイトルは『魔王降臨 ~孤独な少女が覇王になるまで~』。


 ブーッ。


 開演のブザーが鳴り、照明が落ちる。


 満員の観客たちが、手に持ったポップコーンとコーラを握りしめる。


 スクリーンに映し出されたのは、千年前の魔界。


 まだ幼く、力も弱かったヴェルザードが、過酷な環境で生き抜き、仲間との別れを経験し、やがて最強の力に目覚めるまでの壮絶な叙事詩だ。


「……うっ、ううっ……」


「魔王様……そんな過去が……」


 客席のあちこちから、すすり泣く声が聞こえる。


 特に、彼女の幼少期を演じたルナ(子役)の演技が光っていた。


 そしてクライマックス。


 覇王となったヴェルザードが、孤独な玉座で呟くシーン。


『……私は全てを手に入れた。だが、なぜこんなにも寒いのだろう』


 そのセリフに、ギルバートの奏でる悲哀のテーマ曲が重なる。


 完璧なカタルシス。


 エンドロールが流れ、館内が明るくなっても、拍手は鳴り止まなかった。


「ブラボー! ブラボー!」


「魔王様、一生ついていきます!」


 スタンディングオベーションだ。


 最前列で見ていたヴェルザード本人は、ポップコーンのバケツを抱えながら、顔を真っ赤にしていた。


「……恥ずかしい。昔の古傷を抉られるような気分だ」


「いい映画だったじゃないか。お前の好感度、爆上がりだぞ」


 俺が茶化すと、彼女はふんと鼻を鳴らした。


「……次はコメディがいい。私がバナナの皮で滑って転ぶようなやつだ」


「それはそれでウケそうだな」


 ◇


 この映画の大ヒットにより、ダンジョンには新たなブームが到来した。


 エルフたちは「私たちも恋愛映画を撮りたい!」と脚本を書き始め、ドワーフたちは「プロジェクトX(巨大建築ドキュメンタリー)」を撮り始めた。


 さらには、噂を聞きつけた王国の売れない劇作家や画家たちが、「ここでなら、自分の作品を認めてもらえるかもしれない」と、続々と亡命してきたのだ。


 かつて「魔物の巣窟」と呼ばれたダンジョンは、今や世界最先端の「芸術の都」へと変貌を遂げていた。


 一方、王国では。


 娯楽といえば「公開処刑」くらいしかなく、民衆の心は荒みきっていた。


 彼らがダンジョンの映画(海賊版)をこっそり入手し、隠れて鑑賞会を開くようになるまで、そう時間はかからなかった。


(第34話 終わり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ