第33話 女性客のために『イケメン騎士団』を結成し、王国を追われた『伝説の吟遊詩人』をプロデューサーに迎えた
魔王ヴェルザードたちのアイドル活動は大成功。
だが、新たな不満の声が上がっていた。
「男のアイドルも見たーい!」
「私の推し(レオン様)が歌って踊るところが見たいのよ!」
エルフやサキュバス、そして人魚たちからの黄色い声援だ。
確かに、客層の半分は女性だ。彼女たちの需要を満たすのも義務だろう。
「よし。やるか、野郎ども」
俺は執務室に、我が国の「顔面偏差値が高い男たち」を呼び出した。
「は? アイドル? 俺がか?」
嫌そうな顔をしたのは、剣聖レオン。
無言で首を横に振る暗殺者ザイン。
そして一人だけ、「ガハハ! 俺の美声を聞かせる時が来たか!」と乗り気な炎将軍イグニス。
「拒否権はない。給料を弾むぞ」
「……くっ、背に腹は代えられねぇ!」
こうして、Sランク男性ユニット『ダンジョン・ナイツ』が結成された。
◇
しかし、問題が発生した。
「……下手くそすぎる」
リハーサル室。 レオンは音程がズレているし、イグニスの声はデカすぎて騒音レベル。ザインに至っては声が小さすぎて聞こえない。
所詮は素人。これでは客から金を取れない。
「困ったな。誰か、本格的な指導ができる奴はいれば……」
その時だった。
ダンジョンの入り口から、ボロボロの服を着た一人の男が迷い込んできたとの報告が入った。
男の名は、ギルバート。
かつて王国の宮廷で「筆頭吟遊詩人」を務めていた、初老の男だ。
「……ここが、音楽が流れる迷宮というのは本当ですか?」
彼は痩せ細り、大事そうにリュートを抱えていた。
「王国では、もう誰も私の歌を聞いてくれません。『歌など腹の足しにならん』『うるさいから出て行け』と……。私は……ただ、歌いたかっただけなのに……」
食糧難の王国では、文化や芸術は真っ先に切り捨てられる。
彼は居場所を失い、噂を頼りにここまで流れてきたのだ。
「なるほど。あんた、本物のプロってわけか」
俺はニヤリと笑い、彼をリハーサル室へ連れて行った。
「おいレオン、ちょっと黙ってろ。……ギルバートさん、一曲頼めるか?」
「……ええ。私の喉が枯れていなければ」
ギルバートがリュートを構え、静かに爪弾く。
そして、歌い出した瞬間。
――空気が、変わった。
魔王の歌が「圧倒的なカリスマ」なら、彼の歌は「魂への浸透」だった。
枯れた味わいの中に、人生の哀愁と希望が詰まっている。
派手な演出などない。ただの声と弦の音だけで、その場にいた全員が涙ぐんでいた。
「……すげぇ」
レオンが呟く。
これが、本物のアーティストだ。
「……素晴らしい音響だ。こんな場所で歌えるなんて、夢のようです」
歌い終えたギルバートが、震える声で礼を言う。
「気に入ったか? なら、ここで働かないか。俺たちの『音楽監督』としてな」
「……私が? このような老いぼれが?」
「あんたが必要なんだよ。この音痴な筋肉ダルマたちを、スターにしてやってくれ」
ギルバートの目に光が戻った。
「……承知いたしました。私の持てる全ての技術を、彼らに叩き込みましょう」
◇
数週間後。
『ダンジョン・ナイツ』のデビューライブ。
「キャアアアアア! レオン様ぁぁぁ!」
「抱いてぇぇぇ!」
ステージ上には、見違えるように洗練された三人の姿があった。
ギルバートの地獄のボイストレーニングと、楽曲提供により、彼らは「聞かせる」アイドルへと進化していたのだ。
そして、アンコール。
ステージの袖でリュートを弾くギルバートの伴奏に合わせ、魔王やレオンたちが全員で合唱する。
そのハーモニーは、単なる娯楽を超え、ひとつの「芸術」として完成していた。
王国が捨てた「文化」は、ダンジョンで花開き、最高のエンターテイメントへと昇華された。
ギルバートは涙を流しながら演奏を続けた。ここが、彼の死に場所だと確信して。
(第33話 終わり)




