第32話 娯楽の王様『アイドル』をプロデュースしたら、魔王がセンターで絶対エースになってしまった
衣食住、カジノ、温泉、ジム。
我が国は地上のどこよりも発展している。
だが、俺は気づいてしまった。
この国には、国民が熱狂し、心を一つにする『象徴』が足りない。
「……アイドルだ」
俺はリビングで呟いた。
「あいどる? なんですの、その怪しい響きは」
ソフィアがコーヒーを片手に首を傾げる。
「歌と踊りで民衆を魅了し、笑顔にする『偶像』のことさ。
……よし、作ろう。『ダンジョン武道館』を」
俺は即座に行動を開始した。
◇
建設場所は、カジノエリアの隣。
音響効果を計算し尽くしたドーム型の巨大ホール。
照明は『光魔法』のスポットライト。
音響は『風魔法』による拡声スピーカー。
スモークは『霧魔法』で演出。
最新の魔法技術を無駄遣いした、収容人数五万人のモンスター級ライブ会場が完成した。
問題は、『誰が歌うか』だ。
俺は主要メンバーを招集し、オーディションを開催した。
「エントリーナンバー1番。夢魔リリス率いる、サキュバスダンサーズ!」
音楽が流れると、露出度の高い衣装を纏ったリリスたちが、妖艶な腰つきで踊り始めた。
「あ~ん♡ みなさん、盛り上がってますかぁ~?♡」
色気がすごい。
最前列で審査員をしていたオークたちが、鼻血を出して気絶した。
「……うむ。これは『夜の部』専用だな。R-18指定だ」
「エントリーナンバー2番。聖騎士アリシア&聖女ノエルの『清純派ユニット』!」
フリフリのドレスを着た二人が、ガチガチに緊張して出てきた。
「わ、私たちが歌うなんて……無理ですぅ……」
「ええい、腹をくくれノエル! 騎士なら恥を捨てるのです!」
二人の歌声は震えていたが、その健気さと可憐さが、逆に「守ってあげたい」という保護欲を刺激する。
「採用。これは王道のアイドルになれる」
そして、最後。
「エントリーナンバー3番。……魔王ヴェルザード」
ステージが暗転する。
漆黒のドレスを着た魔王が、ゆっくりと中央に歩み出てきた。
ダンッ。
彼女がヒールを鳴らした瞬間、会場の空気が張り詰めた。
威圧感じゃない。圧倒的な「カリスマ性」だ。
「……ふん。歌えばいいのだろう? 聞け、愚民ども」
彼女がマイクを握り、歌い出した瞬間。
――衝撃が走った。
魂を震わせるような、力強く、かつ美しい歌声。
『魅了』の魔眼など必要ない。ただその存在だけで、観客全員の視線を釘付けにしている。
まさに、天性の『センター』。
「け、決定だ……! 彼女こそが、我が国の絶対的エースだ!」
◇
数日後。
記念すべきファーストライブ当日。
「うおおおおおおっ!! リリスちゃぁぁぁん!!」
「ノエル様ーっ! こっち向いてーっ!」
会場は超満員。
ドワーフ、エルフ、オーク、ゴブリン。種族を超えたファンたちが、手作りの「光るキノコ(ペンライト)」を振り回している。
そして、トリを飾るのは魔王ヴェルザード。
バサァッ!!
黒い翼を広げ、宙を舞いながら熱唱する彼女の姿に、会場のボルテージは最高潮に達した。
「ひれ伏せ! そして称えよ!」
「「「魔王様! 魔王様! 魔王様!」」」
かつて恐怖の対象だった魔王への叫び声は、今や純粋な「推しコール」へと変わっていた。
◇
その光景を、観客席の隅で見ていた影があった。
王国の密偵だ。
「……た、大変だ……!」
彼は震える手でメモを取っていた。
「報告せねば……。ディラン国は、謎の『音響兵器』と『洗脳舞踊』を開発した。
これを聴いた者は、理性を失い、ただ棒を振るだけの狂信者になってしまう……!」
彼は知らなかった。
自分自身も、無意識のうちに足でリズムを取っていたことに。
こうして、我が国に最強の「文化兵器」が誕生した。
後に、地上の若者たちが「王国軍に入るより、ダンジョンのライブに行きたい!」と言って国境を越える事案が多発するのだが、それはまた別の話。
(第32話 終わり)




