第30話 動きたくない魔王のために『宅配サービス』と『コタツ』を作ったら、そこは魔境(ゴミ屋敷)と化した
コンビニの開店により、ダンジョンの夜食文化は定着した。
だが、人間(と魔王)の欲望は底なしだ。
「……寒い」
ある雪の日。カジノのVIPルームで、ヴェルザードが不満げに呟いた。
「コンビニまで歩くのも寒い。……おいディラン。私の部屋までポテトを持ってこさせろ」
「俺はパシリじゃないぞ」
だが、ふと思う。
確かに、寒い中を歩いて買いに行くのは億劫だ。
なら、持ってこさせればいい。
「よし。やるか。『ウーバー・ダンジョン(配達)』を」
◇
俺は飛行能力を持つハーピーたちを雇い、配達員とした。
そして、配達専用の新メニューを開発した。
小麦生地の上に、トマトソースとたっぷりのチーズ、そしてサラミを乗せて焼き上げた円盤。
そう、『ピザ』だ。
コーラとの相性抜群、カロリーの怪物である。
さらに、部屋での滞在時間を快適にするため、最強の魔道具を導入した。
熱源(火の魔石)を仕込んだテーブルに、布団を被せただけの単純な構造。
――『コタツ』だ。
これを導入した結果、どうなったか。
◇
数日後。
俺は、連絡の取れなくなったソフィアの部屋(研究室)を訪ねた。
「おい、ソフィア。生きてるか?」
ドアを開けると、ムワッとした熱気と、チーズの匂いが漂ってきた。
部屋の照明は落とされ、中央にあるコタツだけが光っている。
「……んぅ……あと一枚……」
そこには、ジャージ姿でコタツに下半身を突っ込み、突っ伏して寝ている大賢者の姿があった。
周囲には、ピザの空き箱(Lサイズ)と、コーラの空き瓶が散乱している。
「……完全に『干物女』だな」
視線をずらすと、コタツの反対側が盛り上がっている。
めくってみると、そこには魔王ヴェルザードがいた。
「……あ? なんだディランか。……今のうちに言っておくが、ここ(コタツの中)は私の領土だ。侵略は許さん」
「魔界より狭い領土だな」
彼女の手には、食べかけのピザ。
最強の魔王が、ただの「コタツの守護神」に成り下がっていた。
さらに、部屋の隅には……。
「うぅ……だめです……騎士の規律が……でも、出られません……」
聖騎士アリシアが、コタツの魔力(重力)に捕らわれ、涙目でみかんを剥いていた。
彼女の指は黄色くなっている。
「ディラン様ぁ……。コタツとピザ、最高です……。私、もう一生ここで暮らします……」
ダメだこいつら。
日本の冬が生み出した「魔の兵器」に、異世界の英雄たちが次々と撃沈していく。
◇
一方、王国。
記録的な寒波により、王都は凍りついていた。
燃料の薪も尽き、貴族たちは毛布にくるまって震えていた。
「さ、寒い……! 魔導暖房さえ動けば……!」
「くそっ、ディランがいれば……!」
彼らがガタガタ震えている頃。
ダンジョンでは、Tシャツ一枚で「暑いからアイス食おうぜ」とコタツで宴会をする、自堕落な光景が広がっていた。
この暴飲暴食と運動不足が、翌週の悲劇(体重増加)を招くとは、この時の彼女たちはまだ知る由もなかった。
(第30話 終わり)




