第29話 24時間営業の『コンビニ』を作ったら、魔王と賢者が深夜にたむろするようになった
ハンバーガーとコーラの普及により、ダンジョンの食生活は劇的に変化した。
だが、俺は気づいてしまった。
研究熱心なソフィアや、ゲーム(スロット)にハマっているヴェルザードは、食事のために食堂に来るのさえ面倒くさがっていることに。
「……腹が減ったが、動きたくない」
「研究の合間に、片手で食べられるものが欲しいわ」
そんな堕落した彼女たちのために、俺は新たな施設を建設した。
場所は、学園とカジノの中間地点。
24時間、いつでも明かりが灯る「魔法の箱」だ。
「――本日オープン。『ダンジョン・マート』だ」
ウィィィン……。
俺が近づくと、風魔法センサーを搭載した『自動ドア』が滑らかに開いた。
その音に、通りがかった生徒や住民たちがビクリとする。
「ど、ドアが勝手に開いた!?」
「幽霊か!?」
「いいから入れ。ここには『便利』のすべてが詰まっている」
俺が手招きすると、恐る恐る店内に入ってきた彼らは、その光景に目を奪われた。
昼間のように明るい店内。
整然と並べられた商品棚。
そこには、おにぎり、サンドイッチ、弁当、菓子パン、そして日用雑貨がずらりと並んでいる。
「す、すごい……! パンの種類だけでこんなに!?」
「この『おにぎり』という三角形の食べ物はなんだ? 海苔がパリパリだぞ!」
だが、俺が一番こだわったのはそこじゃない。
レジ横だ。
「いらっしゃいませー」
店員役のスケルトン(制服着用)が立つレジの横。
ガラスケースの中で、温かい光に照らされている黄金色の揚げ物たち。
そう、『ホットスナック』だ。
「この『ダンチキ(ダンジョン・チキン)』こそが、小腹を満たす最強のアイテムだ」
俺は揚げたてのチキンを紙袋に入れて、客たちに配った。
サクッ。ジュワッ。
「うまっ!? なんだこれ、衣がスパイシーで……肉汁が溢れてくる!」
「食堂の唐揚げとはまた違う、中毒性のある味だ!」
さらに、その隣には湯気を立てる鍋がある。
先日の海で手に入れた出汁を使った『おでん』だ。
「大根、たまご、こんにゃく。……出汁が染み込んでるぞ」
コンビニの魔力。
それは、「いつでも温かいものが、すぐに手に入る」という全能感だ。
◇
その日の深夜2時。
俺が商品の補充確認のために店に行くと、自動ドアが開く音がした。
チャララ・ララララン♪(入店音)
「……あ」 「……む」
鉢合わせたのは、ジャージ姿のソフィアと、スウェット姿の魔王ヴェルザードだった。
二人とも、ノーメイクで髪はボサボサ。完全に「オフ」の状態だ。
「……奇遇ね、ヴェルザード。あなたも?」
「ふん。スロットで少し疲れてな。糖分を補給しに来ただけだ」
そう言いながら、魔王の手には『激甘プリン』と『肉まん』が握られている。
ソフィアのカゴには『栄養ドリンク』と『おにぎり(ツナマヨ)』が入っていた。
「……お前らなぁ。ここは天下のSランク冒険者と魔王の溜まり場じゃないんだぞ」
俺が呆れて言うと、二人は悪びれもせずにレジへ向かった。
「いいじゃない。便利なんだもの。……ねえ店員さん、この『からあげクン(レッドドラゴン味)』も追加で」
「私は『あんまん』だ。……あと、週刊誌の立ち読みは禁止か?」
彼女たちは会計を済ませると、イートインスペースに座り込み、肉まんを頬張りながらダラダラと話し始めた。
「昨日の実験、失敗しちゃってさー」
「ほう。魔法式が間違っているのではないか? ここの計算が……」
大賢者と魔王による、高度すぎる魔法談義。
だが、その手にはコンビニ袋。口元には肉まんの皮がついている。
平和だ。 あまりにも平和で、そして堕落している。
◇
一方、王国の密偵。
彼らは遠くから、深夜のダンジョンに煌々と輝く「光の箱」を目撃していた。
「ほ、報告! ダンジョン内に、夜通し稼働する謎の『発光施設』が出現!」
「魔王と大賢者が深夜に出入りしています! 間違いなく、極秘の軍事会議か、禁断の儀式が行われています!」
王都は再び恐怖に包まれた。
「深夜に肉まんを買い食いしているだけ」という真実を知れば、彼らは膝から崩れ落ちただろう。
こうして、ダンジョンの夜は『24時間営業』となり、住人たちの生活リズムは完全に崩壊……もとい、現代化されたのだった。
(第29話 終わり)




