第28話 ハンバーガーには『コーラ』、徹夜明けには『コーヒー』。……大賢者と魔王がカフェイン中毒になった件
ハンバーガーの大流行により、カジノの売り上げは倍増した。
だが、俺はまだ満足していなかった。
「……喉が乾く」
脂っこいバーガーを食べた後、水やワインでは口の中がサッパリしない。
やはり、あの「刺激」が必要だ。
「よし。飲み物革命だ」
俺は厨房に立ち、二つの「黒い液体」の精製に取り掛かった。
◇
まずは一つ目。
ダンジョン深層で採取した『暗黒豆』を焙煎し、粉砕。
それを熱湯でドリップする。
辺りに漂う、香ばしくも苦い香り。
「な、なんですのディラン? その焦げたような匂いは……」
ふらふらとやってきたのは、校長兼研究職で目の下にクマを作っているソフィアだ。
彼女はここ数日、魔王軍から押収した魔導書の解読で寝ていないらしい。
「ちょうどいい実験台だ。ソフィア、これを飲め」
「……毒じゃないでしょうね?」
ソフィアは漆黒の液体――『ブラックコーヒー』が入ったカップを受け取り、恐る恐る口をつける。
「……にがっ! 泥水じゃないのこれ!?」
「いいから全部飲め。目が覚めるぞ」
彼女は渋々飲み干した。
その数秒後。
カッッッ!!!
ソフィアの瞳孔が開き、眼鏡がキラリと光った。
「……! な、なによこれ!? 頭の中の霧が晴れたみたい! 魔力回路がフル回転してるわ!」
「カフェインの魔力だ。中毒性があるから飲み過ぎには注意しろよ」
「おかわり! これがあればあと三日は寝ずに研究できるわ!」
ソフィア、陥落。
彼女はポットごとコーヒーを持ち去り、研究室へ猛ダッシュしていった。
……まあ、過労死はしないだろう(回復魔法があるし)。
◇
次は二つ目。
子供たちや、カジノ客のための「娯楽ドリンク」だ。
水に『風魔法』で加圧し、強制的に空気を溶かし込んで「炭酸水」を作る。
そこに、香草とスパイス、そして砂糖を煮詰めた「黒いシロップ」を混ぜ合わせる。
シュワワワワ……。
グラスの中で、黒い液体が弾けている。
「……おいディラン。この、毒の沼みたいな飲み物はなんだ?」
やってきたのは、ハンバーガー片手の魔王ヴェルザードだ。
「『コーラ』だ。バーガーの相棒さ」
「ふん。見た目は最悪だが……」
魔王はストローをくわえ、勢いよく吸い込んだ。
「――ぶふぉっ!?」
魔王がむせた。
「い、痛い!? 口の中で何かが爆発したぞ!? やはり攻撃魔法か!?」
「いいから、そのままバーガーを齧ってみろ」
魔王は半信半疑で、コーラで口がピリピリしている状態で、脂っこいバーガーを齧る。
「……ん?」
目が見開かれる。
肉の脂を、炭酸の刺激と爽やかな甘みが洗い流し、強烈な爽快感が駆け抜ける。
「……合う。信じられんほど合うぞ、これ!」
ズズズッ! ガブッ! ズズズッ! 魔王の吸引スピードが加速する。
「ぷはぁっ! ……ゲプッ」
盛大なゲップが、カジノに響いた。
「あっ……」
魔王が顔を真っ赤にして口を押さえる。
「み、見てないな? 今の、魔王の威厳に関わるから……!」
「へいへい。可愛らしい音でしたよ」
「うるさい! もう一杯よこせ!」
◇
さらに、応用編だ。
酒好きのドワーフたちには、ウイスキーを炭酸で割った『ハイボール』を提供した。
「うめぇぇぇ! 喉越し最高じゃねぇか!」
「これならいくらでも飲めるぞ! 仕事が捗るわい!」
こうして。
研究室からはコーヒーの香りが漂い、カジノではコーラの炭酸が弾け、工房ではハイボールで乾杯する声が響くようになった。
王国では、貴重な砂糖やスパイスは貴族の独占物だ。
だが、この国では平民も魔物も、カフェインと砂糖の力でハイになっている。
――ちなみに。
カフェインで覚醒したソフィアが、三日三晩不眠不休で論文を書き上げ、その後丸二日爆睡して学園が休校になったのは、また別の話。
(第28話 終わり)




