表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/58

第26話 刺し身が食べたかったので、人魚の国ごとダンジョンに『海』をお持ち帰りした

 ある日の夕食。  


 テーブルには最高級のドラゴンステーキと、新鮮な野菜サラダが並んでいる。  


 だが、俺の箸は進まなかった。


「……飽きた」


「えっ? 美味しいですよ、ディラン様?」


 アリシアが不思議そうに首を傾げるが、俺は遠い目をした。


「肉はもういい。俺の身体は今、猛烈に『魚』を欲しているんだ。  


 脂の乗ったマグロの刺し身、香ばしい焼き魚、そして出汁の効いた味噌汁……!」


「サシミ? ミソシル?」


 異世界人の彼らには通じないが、俺の脳内はすでに海鮮一色だった。  


 王国の海は遠いし、流通している魚は保存用の干物ばかりで不味い。


「よし。海に行くぞ。そして『海鮮』を確保する」


 ◇


 俺たちはゲートを使い、王国の南に位置する『大海洋』へと転移した。  


 潮の香りが鼻をくすぐる……はずだったのだが。


「……くさっ」


 ルナが鼻をつまむ。  


 目の前の海は、ドス黒く濁り、魚の死骸が浮いていた。


「なんですか、これ……。ヘドロの海?」


 ソフィアが眉をひそめる。  


 どうやら、王国の工場排水や、管理不足による魔物の大量発生で、海が死にかけているらしい。


「ううっ……助けて……」


 岩場の方から、か細い声が聞こえた。  


 行ってみると、網に絡まった一人の少女が倒れていた。  


 下半身は魚の尾ひれ。青い髪の美しい人魚だ。


「人魚!?」

  「だ、大丈夫か!」


 アリシアが網を切って助け起こす。  


 人魚の少女――マリーナは、涙ながらに語った。


「海が……汚れてしまって、仲間たちが病気になっているの。  


 それに、巨大な『毒クラーケン』が暴れていて、私たちは住処を追われて……もう絶滅するしかないわ……」


 なるほど。  ここでも王国(と魔物)のせいで、貴重な水産資源がピンチというわけか。


「……おい、人魚のお姫様」


 俺はマリーナの前にしゃがみ込んだ。


「お前たちの『海』、俺が新しく用意してやると言ったらどうする?」


「え?」


「毒も、外敵もいない。サンゴ礁が輝く綺麗な海だ。  


 そこで俺のために、毎日新鮮な魚を獲ってくれるなら、一族全員招待してやる」


「そ、そんな場所があるなら……! でも、どうやって移動を……」


 俺はニヤリと笑い、海に向かって手を掲げた。


「簡単だ。ここにある『綺麗な水』と『魚』だけを選んで、転送すればいい」


 管理者権限、発動。  


 ターゲット:周辺海域の海洋生物および、浄化された海水10億トン。


「――【海洋転移アクアリウム・ゲート】」


 ザバァァァァァァッ!!


 海面が割れた。  


 巨大な水柱と共に、人魚の集落や魚の群れが、丸ごと空中に吸い上げられていく。


「きゃあああ! 空を飛んでるぅぅ!?」 「クラーケンだけ置いていかれたぞ!?」


 俺は汚染された海水と、毒クラーケンだけをその場に残し、綺麗な部分だけをごっそりと「切り取った」。


 ◇


 ダンジョン第80階層。  


 そこは、ただの広大な空洞だった場所だ。


 ドバァァァァァッ!!


 そこに天から大量の海水が降り注ぎ、瞬く間に「屋内・大海洋」が完成した。  


 天井には人工太陽。白い砂浜に、透明度抜群のエメラルドグリーンの海。


「す、すごい……! 昔の海より綺麗……!」


 マリーナたち人魚族が、嬉しそうに飛び跳ねる。  


 一緒に転送された魚たちも、綺麗な水の中で元気に泳ぎ回っている。


「今日からここが『人魚の楽園』だ。マリーナ、お前たちはここで魚を養殖し、管理してくれ。報酬は、地上の野菜と甘い果物だ」


「はいっ! ありがとうございます、ディラン様!」


 人魚たちは大喜びで了承した。


 ◇


 その日の夜。  


 俺たちの食卓には、劇的な変化が起きていた。


「これが……サシ・ミ……?」


 魔王ヴェルザードが、恐る恐るマグロの切り身を口に運ぶ。


「んっ……!? なんだこれは、口の中で溶けるぞ!?」


「うまい! この『焼き魚』と『日本酒(エルフ製)』の組み合わせ、最高だ!」


 レオンはすでに徳利を片手に出来上がっている。  


 アリシアやルナも、初めて見る海鮮料理に舌鼓を打っていた。


「ん~! お魚さんも美味しいね!」


 俺も久しぶりの味噌汁を啜り、ホッと息をついた。


「やっぱこれだよな」


 こうして、我が国に『海産物』が加わった。  


 第80階層は、後に「常夏のリゾートエリア」として開放され、魔王や生徒たちが水着でバカンスを楽しむ名所となる。


 一方、王国では。  


 海から魚が消え、残ったのはヘドロと怒り狂った毒クラーケンだけ。  


 漁師たちは廃業し、王国の食卓から完全に魚料理が消滅したが――まあ、俺の知ったことではない。


(第26話 終わり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ