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第25話 魔界が内乱で全滅しそうだったので、軍団ごと『引っ越し』させたら、王国が勝手に絶望していた

 サウナで整った炎将軍イグニスが、血相を変えて俺の元へ走ってきた。


「ディラン殿! 大変です! 魔界から通信が!」


「どうした? サウナの温度が下がったか?」


「違います! 魔界に残した軍団が……限界です!」


 イグニスの報告によると、魔王と幹部が消えた魔界では、残された部隊長たちが「次の魔王は俺だ!」と内乱を始め、収拾がつかなくなっているらしい。  


 さらに、統率を失った下級魔物たちが暴走し、共食いや自滅を始めているという。


「……このままでは、魔王軍は数日で『全滅』します。あるいは、飢えた魔物が雪崩を打って地上へ溢れ出すか……」


 イグニスが悔しげに拳を握る。  


 隣で聞いていた魔王ヴェルザードも、スロットの手を止めて眉をひそめた。


「……私の留守中に内輪揉めとは、嘆かわしい。だが、私の兵が野垂れ死ぬのは寝覚めが悪いな」


 彼女は俺を見た。


「おいディラン。コインは払えんが、私の兵を救ってやってくれんか?」


「いいぜ。ちょうど『カジノの増築』と『地下鉄工事』で人手が欲しかったところだ」


 俺は即決した。  


 数万の魔物。普通なら脅威だが、俺にとっては「賃金のいらない(飯だけで働く)優秀な重機」だ。


「行くぞ。……過去最大級のゲートを開く」


 ◇


 魔界。荒野。  そこはまさに地獄絵図だった。  


 オークの群れとゴブリンの群れが殺し合い、巨大な魔獣が咆哮を上げて暴れまわっている。


「グルァアアア! 俺が王だ!」

「肉だ! 肉をよこせ!」


 秩序なき殺戮。全滅は時間の問題だった。


 その時。


 ズゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


 荒野の空が裂けた。  


 現れたのは、山脈をも飲み込むほどの超巨大な『黒いゲート』。


「な、なんだあれは!?」 「新しい魔王の降臨か!?」


 争っていた魔物たちが動きを止める。  


 門の中から、悠然と歩み出てきたのは――黒い翼を広げたヴェルザードと、ディランだった。


「――静まれ、雑種ども」


 魔王の一喝。  それだけで、数万の魔物が震え上がり、一斉にひれ伏した。


「ま、魔王様! 生きておられたのですか!」


「心配したぞ! 人間界で拷問を受けていると聞いていたのに!」


「拷問? ああ、まあ……サウナは熱かったし、スロットは地獄だったがな」


 ヴェルザードは苦笑し、そして宣言した。


「魔界は今日で閉鎖する。お前たち、飢えているのだろう? 生き延びたければ、この門をくぐれ。向こうには、暴力も飢えもない『楽園』が待っている」


「楽園……!?」

  「飯が……食えるのか?」


「ああ。ドラゴンステーキが食い放題だ」


 ディランが補足すると、魔物たちの目の色が変わった。  


 殺気ではない。食欲と希望の光だ。


「行きます! 一生ついていきます!」


 こうして、魔王軍五万の大移動が始まった。


 ◇


 一方、その頃。  王国の国境監視塔。


「ほ、報告! 魔界の方角に、異常な魔力反応!」

「魔王軍です! 五万……いや、十万近い魔物の大群が、一斉に移動しています!」


 監視兵の報告に、王都はパニックに陥った。


「ひぃぃぃ! ついに総攻撃か!」

  「終わりだ……勇者も聖女もいない今、あんな大軍が来たら……!」


 国王は玉座の下に隠れ、貴族たちは我先にと逃げ出した。  


 彼らは確信した。これで王国は地図から消える、と。


 だが。


「……あれ? 隊長、見てください」


 監視兵が望遠鏡を覗き込み、首をかしげた。


「魔王軍の進路……王都ではありません」

「なんだと?」

「北の『奈落』……ディラン様のダンジョンへ吸い込まれていきます!」


「は?」


 そう。魔王軍は王国など目もくれず、ディランの開いたゲートを通って、全員ダンジョンへ「就職」していったのだ。


 数時間後。  


 魔界はもぬけの殻となり、地上への脅威は完全に消滅した。


 ◇


 ダンジョン内。


「へい! そこ、セメントもっと持ってこい!」

「了解であります!」


 オークたちがヘルメットを被って資材を運び、ガーゴイルが空から測量を行っている。  


 給料代わりの「ドラゴン丼」を腹いっぱい食べた彼らは、涙を流して働いていた。


「ははは。いい動きだ。これで工事も予定より早く終わるな」


 俺は建築現場を見下ろし、満足げに頷いた。


 魔王軍の脅威?  そんなものはもう存在しない。  


 ここにあるのは、世界最強の土木建築会社『魔王組(仮)』だけだ。


 王国が「助かったのか……?」と安堵するのは勝手だが、彼らは気づいていない。  


 脅威が去った代わりに、世界のすべての「武力」と「労働力」が、俺の手に集中してしまったことに。


(第25話 終わり)

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