第24話 魔王様が帰ってこないので部下が『奪還』に来たが、サウナとエステで即日陥落した
魔王ヴェルザードが、保育園の先生兼カジノの常連として住み着いて数日。
ダンジョンの入り口付近で、爆発音が轟いた。
ズガァァァァンッ!!
「――聞け! 卑劣な人間どもよ!」
硝煙の中から現れたのは、異形のオーラを纏う三人の魔族だった。
燃え盛る炎の巨躯を持つ、猛将イグニス。
妖艶な体つきと蝙蝠の羽を持つ、夢魔のリリス。
そして、宙に浮く魔導書を持った、参謀ガリバー。
魔王軍最強の幹部たち、『三将軍』のお出ましだ。
「我らが主、ヴェルザード様を返してもらおう! 貴様らが卑劣な罠で拘束していることは分かっているのだ!」
イグニスが咆哮する。 彼らは勘違いしていた。最強の魔王が帰ってこないのは、人間による洗脳か、強力な結界による封印だと思い込んでいたのだ。
「……やれやれ。また騒がしい客が来たな」
俺はため息をつきながら出迎えた。
隣には、ちょうど風呂上がりでフルーツ牛乳を飲んでいるヴェルザードがいる。
「……ん? イグニスか。何をしている?」
ヴェルザードが腰に手を当てて牛乳を一気飲みする。
その姿は、完全に「休日のOL」だった。
「ま、魔王様!? ご無事でしたか!」
「なんと……そのふざけた格好(浴衣)は!? やはり人間に辱めを……!」
「違う。これは『湯上がり』の正装だ」
魔王が冷たく言い放つ。
だが、忠誠心の高い部下たちは納得しない。
「騙されませんぞ! 魔王様は洗脳されているのだ! 我らが目を覚まさせて差し上げる!」
「いくわよ! このふざけた施設を破壊して……!」
三将軍が殺気を放つ。
俺は頭を掻いた。ここで暴れられると修理費がかさむ。
「おい、お前ら。魔王を返してほしけりゃ力ずくでもいいが……その前に、旅の疲れを癒やしていかないか?」
「は?」
「うちは『おもてなし』がモットーでね。体験コースを無料で提供してやる」
俺は指を鳴らした。
◇
一時間後。
【エリア:超高温マグマサウナ(ドワーフ謹製)】
「うおおおおおおっ!! なんだこの熱さはぁぁぁ!!」
炎の魔人イグニスは、サウナ室で汗だくになっていた。
彼の炎耐性を持ってしても、ドワーフたちが「整うためにはこれくらい必要じゃ!」と作ったオリハルコン製の釜の熱気は強烈だった。
「だ、だが……悪くない……! 体の芯から魔力が活性化する……! これが『トトノウ』という感覚か……!」
イグニス、陥落。
彼は後に、このサウナの「熱波師(アウフグース担当)」として再就職することになる。
【エリア:Sランク・エステサロン(元聖女&エルフ監修)】
「きゃあぁぁぁん! すごいわ! お肌がプルプルよぉ!」
夢魔リリスは、鏡の前で自分の頬を触って絶叫していた。
世界樹のオイルとスライムエキスを使った高級パックの効果は絶大だ。
「魔界の泥パックとは次元が違うわ……! ねえ、この美容液、おいくら? 魂を売れば買えるかしら?」 「労働力で買えますよ」
リリス、陥落。 彼女はカジノの「バニーガール長」兼「エステティシャン」に任命された。
【エリア:大図書館(漫画・ゲームコーナー付き)】
「……ふむ。興味深い」
参謀ガリバーは、膨大な蔵書(俺が前世の記憶で再現した娯楽小説や漫画)の山に埋もれていた。
「この『魔法少女』という概念……実に革新的だ。我々の魔術理論を根底から覆す……。続きは? 最新刊はどこだ!?」
ガリバー、陥落。
彼は学園の「図書委員長」兼「ゲーム開発部」に配属された。
◇
ロビーにて。
「……申し訳ありません、魔王様。我々は、この国(の文化)に敗北しました……」
ツヤツヤになった三将軍が、ヴェルザードの前で土下座している。
「ふん。まあよい。お前たちがここ気に入ったのなら、私の『付き人』として働くことを許可する」
魔王が鷹揚に頷く。
「おいディラン。こいつらの寝床も用意してやれ。使える部下だぞ」
「ああ。ちょうど人手不足だったんだ。……特にサウナの温度管理係は助かるよ」
こうして。 魔王軍のトップ層が、ごっそりと我が国に引き抜かれた。
魔界に残された下級兵士たちが、「幹部たちが誰も帰ってこない……人間界コワイ……」と震え上がり、二度と侵攻してこなくなったのは、嬉しい誤算だった。
(第24話 終わり)




