表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/37

第23話 魔王(ラスボス)が暇そうだったので、『最強の保母さん』として雇用してみた

 ダンジョン学園、初等部(保育ルーム)。


 そこは戦場だった。


「いやぁぁぁ! まだあそぶぅぅぅ!」


「おひるねキライ! 魔法撃つぅぅぅ!」


 Sランク食材で無駄に体力が有り余った子供たちが、昼寝の時間になっても暴れまわっている。  


 保健室の先生兼、保育担当になった元聖女ノエルは、涙目で走り回っていた。


「み、皆さん寝てくださいぃぃ! お願いしますぅぅ!」


 聖女の威厳、ゼロである。


 俺が様子を見に行くと、ノエルが縋り付いてきた。


「ディランさぁぁん! 助けてください! 私の『範囲睡眠スリープ』魔法が効きません! あの子たち、魔力抵抗レジストが高すぎて!」


「そりゃあ、毎日ドラゴン肉を食ってるからな。並の魔法じゃ寝ないだろうよ」


 さて、どうするか。  


 俺が腕を組んでいると、廊下を優雅に歩く影があった。  


 昨日からカジノに入り浸り、休憩がてら散歩していた魔王ヴェルザードだ。


「……喧しいな。私の安息を妨げる騒音はどこだ?」


 魔王が不機嫌そうに保育ルームを覗き込む。  


 その瞬間、子供たちの視線が彼女に集中した。


「あ! つばさのおねえちゃん!」

「昨日のヒコーキだ! またやってー!」


 子供たちが群がる。  


 ヴェルザードは「えぇい、寄るな幼生体ども!」と払いのけようとするが、子供たちは手足にしがみついて離れない。


「おい魔王。ちょうどいい、バイトしないか?」


「あ? 何を言っている貴様」


「こいつらを『寝かしつけ』られたら、カジノのコインを一万枚やる」


 ピクリ。魔王の耳が動いた。  


 彼女は今、スロットで負けが込んで金欠なのだ。


「……一万枚か。悪くない」


 魔王はニヤリと笑い、部屋の中央に立った。


「いいだろう。静寂というものを教えてやる。……聞け、幼子たちよ」


 ドォォォォン……ッ!!


 魔王から、漆黒のオーラ(覇気)が漏れ出した。  


 生物としての本能的な恐怖。  


 普通なら気絶するレベルの重圧だが、彼女は器用に出力を「微調整」していた。


「――騒ぐ者は、闇に喰われるぞ?」


 シーン……。  


 一瞬で部屋が静まり返った。  


 子供たちは「怖い」というより、「すごーい」と口を開けて固まっている。


「ふん。聞き分けがいいな。……では、物語の時間だ」


 彼女は虚空から、禍々しい装丁の分厚い本を取り出した。  


 どう見ても絵本ではない。『暗黒魔術全書』とかそういうやつだ。


「むかしむかし、あるところに愚かな人間がいました。人間は魔界に攻め込みましたが、私の『極大消滅魔法ヴォイド・ハザード』で塵になりました。……おしまい」


「「「キャハハハハ!」」」


 なぜか大ウケした。  


 子供たちは「ちりになったー!」

「つよーい!」と大喜びだ。  


 ノエル先生だけが「えぇ……情操教育的にどうなの……」と青ざめている。


「さて、満足したか? ならば眠れ」


 魔王は部屋の真ん中に座り込むと、背中の巨大な「黒い翼」をバサリと広げた。  


 そして、群がってくる子供たちを、その翼で包み込んだ。


「……あったかーい」 「ふわふわするー」


 魔王の翼は、見た目に反して最高級のシルクのような手触りだった。  


 さらに、彼女の体から発せられる魔力は、心地よい「闇」となって視界を遮り、安眠効果をもたらす。


「……ふん。寝顔だけは天使だな」


 ヴェルザードは、膝の上で眠り始めた子供の頭を、鋭い爪のついた指で――驚くほど優しく撫でていた。  


 その顔には、カジノで見せる熱狂とも、戦場で見せる殺気とも違う、慈母のような穏やかさがあった。


(……なんだ。最強の適任者じゃないか)


 俺は苦笑し、ノエルに耳打ちした。


「ノエル。今日から彼女を『特別非常勤講師』に任命する。給料はカジノのコインだ」


「は、はい……。聖女の私が、魔王様のアシスタントになるなんて……」


 こうして、保育ルームに平和が訪れた。


 数分後。  


 黒い翼の布団の中でスヤスヤと眠る子供たちと、それを満足そうに見下ろす魔王。  


 その光景は、宗教画のようにシュールで、かつ神聖だった。


 ――なお、この噂が広まり、翌日から「うちの子も魔王先生に寝かしつけてほしい!」というエルフやドワーフの親が殺到し、魔王が「私はベビーシッターではない!」とキレるまでがセットである。


(第23話 終わり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ