第22話 幼児向けの『お馬さんごっこ』を開催したら、剣聖と魔王がプライドを捨てて四つん這いになっていた
ドラゴンレースと人間チェスが終わり、大人の興奮が冷めやらぬ中、学園の初等部(未就学児クラス)から、可愛らしい要望が届いた。
「ねーねー、ディランお兄ちゃん! あたしたちも乗り物にのりたーい!」
「ドラゴンはこわいー。もっとひくいのがいいー」
開拓村の孤児たちや、エルフの幼子たちが俺の服を引っ張る。
なるほど。確かにドラゴンは子供には危ないし、スロットも早すぎる。
「よし。なら、もっと安全で、温かみのある乗り物を用意してやろう」
俺はニヤリと笑い、休憩中の「彼ら」を指名した。
◇
学園の中庭、芝生エリア。
そこに並ばされたのは、世界屈指の英雄たちだった。
「……なぁ、ディラン。なんで俺が四つん這いになってるんだ?」
剣聖レオンが、地面に手をつきながらジト目で訴える。
その背中には、キャッキャと笑う三歳児がしがみついていた。
「『お馬さんごっこ』だ。子供の情操教育にはスキンシップが一番だからな」
「いや、スキンシップのレベルが高すぎるだろ! 俺の背中は国宝級の聖剣を背負う場所だぞ!?」
「まあまあ。ほら、アリシアを見習え」
隣を見ると、聖騎士アリシアは真剣そのものだった。
彼女の背中には、エルフの幼女が乗っている。
「安心してください、リリちゃん。私の背中は『鉄壁』です。どんな揺れも吸収してみせます!」
「ありしあおねーちゃん、すごーい! たかーい!」
「くっ……! アリシアがやる気なら、俺だけ降りるわけにはいかねぇ!」
レオンも覚悟を決めたようだ。
そして、もう一組。
「ザイン! もっとはやく! 風になりたいの!」
「へいへい、お嬢。舌噛まないように気をつけな」
ルナを背負ったザイン(暗殺者)は、すでに残像が見える速度で反復横跳びをしていた。
さすが保護者枠、手慣れている。
「よし、全員準備はいいな?
第一回、チキチキ『Sランク騎馬戦』……スタート!」
俺の号令と共に、芝生の上で伝説の戦いが始まった。
ドシュッ!!
レオンが地面を蹴る。四つん這いなのに、野生の獣より速い。
「うおおおお! 振り落とされんじゃねぇぞ小僧! 『縮地』ッ!!」
「きゃはははは! はやーい!」
子供は大喜びだが、速度は時速100キロを超えている。
俺が事前に【落下耐性】と【衝撃吸収】のバフを掛けていなければ、子供がG(重力)で気絶していただろう。
「甘いですレオン様! 【シールド・チャージ】!」
アリシアが光の障壁を纏い、戦車のように突進する。
背中のエルフ幼女は「いけー! つぶせー!」と物騒なことを叫んでいる。
Sランク冒険者たちが、本気でハイハイしながら激突する光景。
地獄絵図なのか天国なのか分からない。
そんな中。 一人、蚊帳の外にいる人物がいた。
「……ふん。くだらん」
木陰で腕を組んで見ていた、魔王ヴェルザードだ。
彼女は冷めた目で、大の大人が四つん這いになる姿を眺めていた。
「人間とは、ここまで尊厳を捨てられる生き物なのか。理解できん」
だが、一人の人間の幼女(村の孤児)が、トコトコと彼女に近づいてきた。
「……ねえ」
「あ? なんだ、人間の子か。私に近づくと呪われるぞ」
魔王が威圧する。
しかし、幼女は怯まない。じーっと、魔王の背中にある「黒い翼」を見つめている。
「おねえちゃん、はねがあるの?」
「そうだ。これは高貴なる魔族の王の証……」
「かっこいい! これにのりたい!」
「……は?」
魔王が固まった。
幼女はキラキラした目で、魔王の背中を指差している。
「だめ? おねえちゃん、お馬さんできないの? よわいの?」
「なっ……!?」
魔王の眉がピクリと動いた。
『弱い』。その言葉は、魔王にとって最大の禁句だ。
「誰に向かって口を利いている。私は最強だ。誰よりも速く、高く飛べる」
「ほんと? じゃあやって!」
「ぐっ……」
魔王が俺の方を見る。
俺はニヤニヤしながら、口パクで『まさか、できないんですか?』と煽った。
ブチッ。
魔王の中で何かが切れた。
「……いいだろう。特別だ。光栄に思え、人間の子よ!」
バサァッ!!
魔王が漆黒の翼を広げ、四つん這い……ではなく、低空飛行の姿勢を取った。
「乗れ! 天空の覇者の背中というものを教えてやる!」
「わーい!!」
幼女が魔王の背中に飛び乗る。
直後。
ズドンッ!!
魔王が音速を超えて発進した。
「ははははは! どうだレオン! アリシア! 貴様らの地を這う鈍足とは格が違うわぁぁぁ!!」
「ちょっ、魔王様!? 大人げないですよ!?」
「空を飛ぶのは反則だろ!」
空中で高笑いする魔王と、その背中で「すごーい!」と絶叫する幼女。
もはや騎馬戦ではなく、空中ドッグファイトになっていた。
俺はベンチで紅茶を飲みながら、そのカオスな光景を眺めた。
「平和だなぁ……」
最強の魔王すらも、子供の笑顔と「煽り」には勝てない。
この国は今日も、実に平和で馬鹿馬鹿しい一日を過ごしている。
(第22話 終わり)
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