第21話 スライムレースは地味なので『ドラゴンレース』を開催し、子供の情操教育のために『リアル人間チェス』を導入してみた
カジノ・フロアの熱気は冷めやらない。
スロットで大負けした(そしてたまに勝って脳汁を出した)魔王ヴェルザードは、ふらふらになりながら俺の元へ来た。
「……おい、人間。スロットはもういい。目が回る。もっとこう、血湧き肉躍るような賭け事はないのか?」
「あるぞ。ちょうどメインイベントが始まるところだ」
俺は魔王と、視察に来ていた帝国の貴族たちを連れ、カジノの奥にある『スタジアム』へと案内した。
◇
そこは、東京ドーム数個分が入るほどの超巨大な円形闘技場だった。
「さあ、第一回『ドラゴン・ダービー(SG1)』の開幕だ!」
俺の合図と共に、ゲートが開く。
ギャオオオオオッ!!
飛び出してきたのは、スライムでも馬でもない。
レッドドラゴン、ブルードラゴン、ワイバーン・ロードといった、地上なら一匹で国が傾く『災害級』のドラゴンたちだ。
しかも、その背中には――。
「いけぇぇぇ! 差せ差せぇぇ!」
「遅いぞブルードラゴン! 今日の夕飯抜きにするぞ!」
ダンジョン学園の生徒たちが、騎手として跨っていた。
これは彼らの『騎乗スキル』の実技試験も兼ねているのだ。
「な、なっ……!?」
魔王ヴェルザードが絶句する。
「あ、あれは誇り高き竜種……! それを、人間の子供が乗り回しているだと!?」
「あいつら、最近『通学用』にドラゴンを捕まえるのが流行っててな」
ドゴォォォン!!
コーナーでレッドドラゴンが炎を吐いて加速する。
観客席の帝国貴族たちは「うおおお! 赤だ! 赤に全財産!」と狂喜乱舞している。
圧倒的な迫力とスピード感。
スライムがペチペチ走るレースとは次元が違う。
「くっ……! おのれ、竜の尊厳を……! ……で、一番倍率が高いのはどれだ?」
「あの黒いワイバーンだ。大穴(万馬券)だぞ」
「そこに金貨千枚だ!!」
魔王様、順調にギャンブル沼に沈んでおられる。
◇
レースの熱狂が一段落した後。
俺は子供たち(ルナやノエル先生、そして見学の生徒たち)のために用意した『知育エリア』へ移動した。
「次はこれだ。『タクティカル・ボードゲーム』」
用意したのは、縦横百メートルある巨大な盤面(チェス盤)。
だが、そこに置く「駒」は木彫りの人形ではない。
「えっと……ディラン。なんで俺が『歩兵』のマスに立たされてるんだ?」
盤上に立っているのは、剣聖レオンだ。
そして『騎士』の位置にはアリシア。『僧侶』の位置にはノエル。
要するに、生身の人間を駒として使う『リアル・チェス』だ。
「教育には実戦が一番だからな。……おいソフィア、お前が黒の指揮官だ」
「あら、面白そうね。私の頭脳に勝てると思って?」
ソフィアが指揮台に立ち、不敵に笑う。
対する白の指揮官は、なんと魔王ヴェルザードだ。
「ふん。軍団指揮なら私の本職だ。人間ごときに負けはせん」
魔王VS大賢者。
豪華すぎる頭脳戦が始まった。
「レオン、前へ。敵陣を突破して!」
ソフィアの命令で、レオンが走る。
「はいよっと。……うおっ!?」
レオンがマスを進んだ瞬間、魔法陣が発動し、彼の剣に炎属性が付与された。
この盤面は、マスごとにバフ(強化)やデバフ(罠)が発動する仕組みになっているのだ。
「甘いな。……ザイン、右翼から奇襲だ」
魔王の命令で、黒側の駒として参加していたザインが姿を消し、レオンの背後を取る。
「うわっ、汚ねぇぞザイン!」 「仕事なんでな。悪く思うなよ」
盤上で繰り広げられる、Sランク冒険者同士の模擬戦。
それを見ている生徒たちは、目を輝かせてメモを取っている。
「すごい……あそこで囮を使うなんて!」
「ソフィア先生の先読み、三手先まで読んでる!」
まさに生きた教材だ。
だが、勝負は意外な結末を迎えた。
「――チェックメイトよ」
ソフィアが眼鏡を光らせる。
魔王の『王』である俺(なぜか王様役をやらされた)の首元に、アリシアの剣が突きつけられた。
「な、なんだと……!? 私が戦術で負けるなど……!」
魔王が愕然とする。
彼女は「個の力」でゴリ押しする戦い方は得意だが、ソフィアのような「搦手」や「連携」を使う戦術には不慣れだったのだ。
「ぐぬぬ……! もう一回だ! 次は私が駒になって暴れてやる!」
「はいはい、延長戦ですね。追加料金いただきます」
こうして大人は賭け事に狂い、子供は高度な戦術を学ぶ。
ダンジョンの娯楽施設は、地上にはない刺激に満ち溢れていた。
ちなみに、この後『人間将棋』も開催され、レオンが「なんで俺が『飛車』なんだ! 真っ直ぐしか行けねぇ!」と文句を言いながら壁を突き破って直進していったのは、また別の話。
(第21話 終わり)




