第20話 王国が滅びかけているので放置して、俺はダンジョンに『巨大カジノ』をオープンした。……最初の客が『本物の魔王』ってマジ?
王国への復讐を終えた俺は、平和になったダンジョンで次なる計画に着手していた。
衣食住は足りた。教育も足りた。
なら、次は大人の遊び場だ。
「――というわけで、今日から第71階層を『カジノ・フロア』として開放する」
俺の宣言と共に、ライトアップされた巨大なホールが姿を現した。
ドワーフの技術とエルフの魔法を融合させて作った『魔法スロットマシン』。
ミスリルのチップが舞う『ルーレット』。
そして、バニーガール姿(俺の趣味だ)に着替えたエルフのお姉さんたちが給仕をするカードテーブル。
「……呆れた。ダンジョンにカジノを作るなんて」
ソフィアが呆れつつも、興味津々でスロットを眺めている。
「いいじゃないか。帝国の皇帝も『金を使う場所がない』と嘆いていたしな。外貨獲得の切り札だ」
俺はニヤリと笑った。
『遊び人』のスキルには【イカサマ】や【強運】がある。ここは俺の独壇場だ。
さあ、グランドオープンだ。
……と思った、その時だった。
ビリビリビリビリッ……!!
突如、カジノフロアの空気が凍りついた。
物理的な冷気ではない。魂が震えるような、圧倒的な「死の気配」。
「なっ……!? なんだこの魔力は!?」
レオンが即座に剣に手をかける。 ソフィアも顔色を変えて杖を構えた。
カジノの入り口。 そこに、一人の「客」が立っていた。
漆黒のドレスに身を包んだ、銀髪赤眼の女性。
その背後には、禍々しい黒い翼が広がっている。
ただ立っているだけで、周囲の空間が歪むほどのプレッシャー。
「……ふん。ここか」
彼女は退屈そうにフロアを見渡し、冷徹な声で言った。
「『新魔王』などという不届き者が湧いたと聞いて来てみれば……なんだ、このふざけた場所は」
彼女が一歩踏み出すだけで、スロットマシンの魔力がショートして火花を散らす。
「貴様か? 我が名を騙る愚か者は」
彼女の視線が俺を射抜く。
鑑定眼を使わずとも分かる。こいつは――。
「……『本物の魔王』ヴェルザードか。ようこそ、グランドオープン初日に大物が来たな」
魔族を統べる頂点。人類最強の敵。
それが、まさかの来店だ。
「気安く名を呼ぶな、人間。……不愉快だ。消えろ」
魔王が指を向ける。
それだけで、Sランク冒険者であるレオンたちが「動けない」ほどの重圧が襲う。
殺される。誰もがそう思った。
だが、俺は動じずにポケットからコインを一枚取り出した。
「待てよ。ただ殺し合うんじゃつまらないだろ?」
「……あ?」
「あんた、退屈してるんじゃないか? 世界征服なんて簡単なゲーム、もう飽きてるだろ」
魔王の目がわずかに動いた。図星か。
圧倒的強者は、いつだって退屈という毒に侵されているものだ。
「俺と勝負しろ。暴力じゃなく、『運』と『度胸』のゲームでな」
俺は一台のスロットマシンを指差した。
「ルールは簡単。このレバーを引いて、数字を揃えるだけだ。
もしあんたが勝てば、俺の首でもこの国でも好きにすればいい。
だが、もし俺が勝てば……」
「……勝てば?」
「当店の『お得意様(VIP)』になってもらう」
魔王は鼻で笑った。
「くだらん。私がそのような子供騙しに……」
彼女は気まぐれに、スロットのレバーを魔力で弾いた。
ギュルルルルルッ!!
リールが回転する。
彼女は適当にボタンを押した。
ガキン。ガキン。ガキン。
揃ったのは――『7・7・7』。
キュインキュインキュイン!!
ファンファーレが鳴り響き、大量のコインがジャラジャラと溢れ出した。
「なっ……!?」
魔王が目を見開く。
もちろん、俺が裏で確率操作をしたのだ。
だが、彼女はそれを知らない。
生まれて初めて味わう「予想外の勝利」。
そして、煌びやかな光と音の洪水を前に、彼女の脳内でドーパミンが弾けた。
「な、なんだこれは……! コインが増えたぞ!? ただレバーを引いただけなのに!」
「それがギャンブルだ。……どうだ、ゾクゾクするだろ?」
俺は悪魔の囁きを耳元で行う。
「もう一回やるか? 次はもっと『大当たり』が出るかもしれないぞ」
魔王ヴェルザードのゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。
その瞳から殺気は消え、代わりにギャンブラー特有の「熱」が宿っている。
「……い、一回だけだぞ。勘違いするな」
彼女は席に座り、レバーを握った。
数時間後。
「くそっ! また外れた! 次だ! 次こそは来るはずだ!」
「お客様、コインの追加はいかが致しますか?」
「出せ! 私の城にある宝物庫から金貨を持ってこい!」
そこには、すっかりスロット沼にハマった「元」恐怖の魔王の姿があった。
こうして、我が国のカジノに、最強にして最優良な(金を落としてくれる)常連客が誕生した。
彼女が落とす金のおかげで、我が国の経済はさらに潤うことになる。
……なお、帝国皇帝と魔王が並んでスロットを打つという、歴史の教科書が破綻する光景が日常となるのだが、それはまた別の話。
(第20話 終わり)




