第19話 暇だったので『ざまぁ大賞』を誰にするか決め、元婚約者と親父を招待して現実(格差)を教えてやることにした
勇者と聖女を失った王国軍が撤退してから数日。
俺は学園の校長室(ソフィアの部屋)のソファで、暇を持て余していた。
「……なぁ、ソフィア」
「なによ、仕事中よ」
「今回の騒動の『MVP(ざまぁ大賞)』って、誰だと思う?」
俺の問いに、ソフィアは書類から顔を上げずに答える。
「物理的に痛い目を見たのは勇者ね。社会的に死んだのは国王。……でも、精神的に一番惨めなのは、まだ残ってるんじゃない?」
「……だよなぁ」
俺はニヤリと笑った。
個人的に、どうしても精算しておきたい連中がいる。
俺を「恥さらし」と呼んだ親父。
俺を「ゴミ」と呼んで婚約破棄した、公爵令嬢のエレノア。
彼らは今、資源のない王都で惨めな生活をしているはずだ。
だが、遠くで苦しんでいるのを想像するだけじゃつまらない。
「思いついた」
俺は指を鳴らした。
「招待しよう。『和平交渉』という名目でな」
◇
翌日。
我が国の正門(ダンジョン入口)に、一台のボロボロの馬車が到着した。
降りてきたのは、やつれ果てた中年男性――アークライト伯爵。
そして、かつて社交界の華と呼ばれた元婚約者――エレノアだ。
二人の服は薄汚れ、頬はこけている。
王都の食糧事情が限界に近いことが見て取れた。
「……ここが、あの『奈落』なのか?」
「信じられない……暖かいわ。それに、いい匂いがする……」
彼らが門をくぐった瞬間、その表情が驚愕に染まった。
頭上に輝く人工太陽。 見渡す限りの黄金の小麦畑。
牧場には丸々と太った家畜(魔物)が走り回り、整備された街道をドワーフ製の魔導車が走っている。
「な、なんだこれは……王都より発展しているではないか……!」
「嘘よ……こんなの、ありえないわ……!」
呆然とする二人の前に、俺が現れた。
「よう。久しぶりだな、親父。エレノア」
俺は最高級のシルク(妖蚕製)のスーツを着て、優雅に片手を挙げた。
隣には、磨き抜かれた白銀の鎧を着たアリシアと、艶やかなドレスを纏ったソフィア、そして元聖女ノエルが控えている。
「ディラン……!」
親父が俺を睨む。だが、その目には以前のような威圧感はなく、焦りと欲望が渦巻いていた。
「貴様! よくも国を混乱させてくれたな! だが、慈悲深い私は許してやろう。さあ、今すぐこの国を王家に献上し、戻ってくるのだ!」
「そうよディラン! 私だって許してあげる!」
エレノアが猫なで声で歩み寄ってくる。
「婚約破棄は無効よ。だって、あなたは私のことが好きだったでしょう? 今なら特別に、また婚約者にしてあげても……」
彼女はそこで言葉を詰まらせた。
俺の隣にいるアリシアを見たからだ。
今の生活で肌ツヤが極限まで良くなり、Sランク装備で着飾ったアリシアは、女神のように美しかった。 対してエレノアは、栄養不足で肌が荒れ、髪もパサパサ。 その差は歴然だった。
「……っ! な、なによその泥人形! 私の方が……私の方が身分も美貌も上だったはずなのに!」
エレノアが嫉妬で顔を歪める。
俺はため息をついた。
こいつら、まだ自分の立場が分かってないのか。
「おい、勘違いするな」
俺は冷たく言い放った。
「俺が呼んだのは、お前らを許すためじゃない。『見せる』ためだ」
「見せる?」
「ああ。……ザイン、餌の時間だ」
俺の合図で、ザインが巨大な桶を持ってきた。
中に入っているのは、Sランク野菜の切れ端や、ドラゴンの肉の余り。
それでも、市場価値にすれば金貨数百枚分の御馳走だ。
「グルァアアアッ!」
ベヒーモス(ポチ)がやってきて、その餌をガツガツと美味そうに食べ始めた。
「なっ……!?」
親父とエレノアが息を呑む。
「そ、その野菜は……幻の『天界キャベツ』か!?」
「あっちの肉は……霜降り……!?」
二人の喉がゴクリと鳴る。
王都ではパンの耳すら奪い合っているのに、ここでは家畜がそれ以上のものを食べている。
「どうだ? 美味そうか?」
俺はニヤリと笑った。
「お前らが『ゴミ』と言って捨てた俺は、今やこの国の王だ。
そしてお前らは、うちのペット以下の生活をしている『本物のゴミ』になり下がった」
「ぐっ……ううぅ……!」
親父が屈辱に震える。
エレノアは、プライドと食欲の板挟みになり、涙目でベヒーモスの餌を見つめている。
「……お願い、ディラン」
ついに、エレノアが膝をついた。
「食べさせて……。なんでもするから……その、残飯でいいから……!」
「儂もだ! 息子よ、頼む! 一口でいい!」
プライドの高い伯爵と令嬢が、地面に這いつくばって乞食のように懇願する。
これだ。この顔が見たかった。
俺は満足げに頷き、そして――冷酷に告げた。
「断る」
「え?」
「うちのペットの餌は、高いんだよ。お前らごときに食わせる予算はない」
俺は指を鳴らした。
「アリシア、つまみ出せ。二度と敷居を跨がせるな」
「はい!」
アリシアが容赦なく二人を担ぎ上げる。
「いやぁぁぁ! お肉ぅぅぅ!」
「待ってくれぇぇぇ! 私はお前の父親だぞぉぉぉ!」
二人は泣き叫びながら、門の外――寒空の下へと放り出された。
その夜。
俺たちはベヒーモスも交えて、最高級のすき焼きパーティーを開いた。
門の外で、二人が指をくわえて見ている気配を感じながら食べる肉は、最高のスパイスだった。
――ざまぁ大賞、決定だな。
(第19話 終わり)




