第18話 勇者が聖女を盾にしたので、俺は彼女を保護して『限定プリン』をご馳走することにした
国立ダンジョン学園、校外学習(実技演習)。
眼下に広がるのは、勇者カエル率いる王国軍三万。
対するは、我が校の生徒五十名と、ドワーフ&エルフの有志連合。
「いいか、お前ら! 今日の報酬は『世界樹とドラゴンミルクの特製プリン』だ! 限定100個! 活躍した順に配る!」
俺が拡声器で叫んだ瞬間。
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
地響きが起きた。
生徒たちの目の色が変わった。獲物を狩る獣の目だ。
「……あら。ディラン、そのプリン、職員分は確保してあるんでしょうね?」
横から、ソフィアが眼鏡を光らせて詰め寄ってくる。
アリシアも無言で聖剣の柄に手を掛けているし、ルナに至っては既にヨダレを垂らしている。
「あー……職員も『成果払い』だ。働かざる者食うべからず」
「「「了解!!」」」
瞬間、先生たち(Sランク冒険者)が音速で飛び出した。
◇
「ひっ、ひいいっ! なんだあいつらは!?」
戦場は一方的な虐殺会場となっていた。
魔法科の生徒(エルフ指導済み)が放つ『合成魔法』が戦車隊を吹き飛ばし、ドワーフ製のパワードスーツを着た農民たちが、騎士団を紙切れのように薙ぎ払う。
そして極めつけは、プリンのために本気を出したソフィアとアリシアだ。
彼女たちが通った後は、ぺんぺん草一本残らない更地になっていた。
「くそっ! どうなっているんだ! 俺は勇者だぞ!」
本陣の後方。
勇者カエルはパニックに陥っていた。
その横には、青ざめた顔で杖をつく、金髪の少女がいた。
王国の聖女、ノエルだ。
「おい聖女! 結界だ! もっと強力な結界を張れ!」
「む、無理です……! もう魔力が残っていません……これ以上は命に関わります!」
ノエルが悲痛な声を上げる。
彼女はこの遠征中、勇者の無茶な命令で酷使され、ポーション中毒寸前まで追い込まれていたのだ。
「うるさい! お前は俺を守るために存在するんだ! 死んでも結界を維持しろ!」
カエルはあろうことか、ノエルの襟首を掴み、迫りくる魔法の矢の前に盾として突き出した。
「きゃあっ!?」
矢がノエルの眼前まで迫る。
彼女が死を覚悟して目を閉じた――その時。
ガギィィィィィンッ!!
黒い影が割り込み、矢を素手で叩き落とした。
「……相変わらず、最低な男だな」
「え……?」
ノエルが目を開けると、そこには黒髪の青年――ディランが立っていた。
「で、ディラン!? 元宮廷魔導師の!?」
「ひいっ! 魔王!」
カエルが腰を抜かして後ずさる。
「女を盾にする勇者がどこの世界にいる。……見ていて吐き気がするな」
ディランは冷徹な瞳で見下ろすと、指をパチンと鳴らした。
「【強制転送】」
ヒュンッ。
「へ? うわあああああ!?」
カエルの体が一瞬で消え去った。
転送先は、ダンジョン最深部の『スライム(溶解液持ち)の巣』だ。死にはしないだろうが、装備が全部溶けて裸で泣いて帰ることになるだろう。
ディランは、へたり込んでいる聖女に向き直った。
「……大丈夫か?」
「あ……はい……。助けて、いただいたのですか……?」
「まあな。……お前、顔色が悪いぞ。ちゃんと飯食ってるか?」
ノエルのお腹が、グゥ~と可愛らしい音を立てた。
彼女は顔を真っ赤にしてうつ向く。
「……兵糧が尽きていて……勇者様たちの分しかなくて……」
「はぁ。ブラック企業(王国)も極まれりだな」
ディランは呆れてため息をつくと、懐からガラス瓶を取り出した。
黄金色に輝く、プルプルの物体。
「ほら、これ食え。糖分補給だ」
「こ、これは……?」
「プリンだ。……ただし、そこらのプリンじゃないぞ」
ノエルがおずおずと一口食べる。
瞬間。
「んんっ……!?」
彼女の瞳が見開かれ、背中から光の翼(魔力)が噴き出した。
「あ、甘い……濃厚……! 全身の疲れが溶けていくようです……!」
聖女の奇跡(全回復)が、プリン一つで発動してしまった。
「気に入ったか? なら、ウチに来れば毎日食えるぞ」
ディランが手を差し伸べる。
「王国に戻っても、また盾にされるだけだ。 俺の国で、子供たちの保健室の先生でもやってくれないか? 給料はプリン現物支給でどうだ」
ノエルの目に涙が溜まる。
今まで道具としてしか扱われなかった彼女に、初めて「人」として接してくれた。 しかも、このプリンは悪魔的に美味しい。
「……はい! 行きます! 私、もうあんな国に戻りたくありません!」
ノエルはディランの手をしっかりと握り返した。
◇
こうして、王国軍は「総大将(勇者)の失踪」と「聖女の寝返り」により、完全崩壊した。
生徒たちはプリンを食べて大満足。
我が国には、新たに『保健室の聖女先生』が加わった。
彼女の作る回復魔法入りハーブティーは、後に学園の名物となるのだが、それはまた別の話。
(第18話 終わり)




