第17話 王国が俺を『新魔王』認定して討伐軍を組んでいる頃、俺はダンジョンに『学校』を作っていた
帝国との交易が軌道に乗り、我が国は名実ともに一つの独立国家として機能し始めていた。
衣食住は完璧。娯楽(酒・温泉)も充実。
次に必要なのは「教育」だ。
「――というわけで、今日からここを『国立ダンジョン学園』とする」
俺は広大な空き地に建設した、白亜の校舎の前で宣言した。
集まったのは、エルフの森からついてきた魔法学園の生徒たちと、ルナなどの亜人の子供たちだ。
「校長はソフィアだ。王国最高の大賢者から直接魔法を教われるなんて、贅沢だぞ?」
「ええっ、私が校長!? ……まあ、研究施設使い放題なら悪くないわね」
ソフィアが満更でもない顔で眼鏡を押し上げる。
「剣術指南役はレオンとアリシアだ」
「おう、任せとけ! Sランク流を叩き込んでやる!」
「騎士としての礼儀作法も教えますからね」
最強の布陣だ。
生徒たちの目はキラキラと輝いている。
「すごい……大賢者様に剣聖様が先生なんて……」
「王国の学園じゃ、貴族の機嫌取りばかりで何も教えてくれなかったのに!」
ルナも尻尾を振って手を挙げた。
「ルナも! ルナもべんきょうする! かしこい狐になる!」
「よしよし。……あ、ちなみに給食は毎日Sランク食材のビュッフェ形式だ」
「「「やったぁぁぁぁ!!」」」
歓声が上がる。
こうして、世界で最もレベルの高い(物理的にも学力的にも)教育機関が爆誕した。
◇
一方その頃。王都、王城。
空気は最悪だった。
帝国が謎の「超高品質武具」で軍備を増強しているという情報が入り、さらに国内の職人や農民が神隠しに遭ったように消えている。
調査の結果、すべての痕跡は北の『奈落』――ディランのいる場所へ繋がっていた。
「おのれ……おのれディラン……!」
国王は玉座の肘掛けをへし折った。
「国の財産(人材)を盗み、あまつさえ敵国に武器を流すとは……! これは明確な反逆! 奴はもはや人間ではない!」
教皇が前に進み出る。
「陛下。奴は『ダンジョン』を支配し、魔物を従えているとのこと。これは、古の予言にある『ダンジョン・マスター』……すなわち『新魔王』の誕生に他なりません」
「魔王……!」
その言葉に、会議室がどよめく。
彼らにとって、自分たちの無能さを棚に上げるには、これ以上ない都合の良いレッテルだった。
「そうだ! 奴は魔王だ! 魔王だからこそ、人をたぶらかし、国を混乱させているのだ!」
アークライト伯爵(親父)も叫ぶ。
「直ちに討伐軍を編成せよ! 勇者カエルを総大将とし、聖騎士団、宮廷魔導師団、全戦力を投入して『魔王ディラン』を討ち滅ぼすのだ!」
「おおお!! 聖戦だ!!」
狂熱が場を支配する。
こうして、王国史上最大規模の軍勢、三万の兵が北へ向けて進軍を開始した。
◇
その数日後。ダンジョン学園の校長室。
「……あら。変なのが来たわね」
ソフィアが窓の外、遠見の魔法で地上を監視していた水晶を見て呟いた。
「どうした、ソフィア」
「見て、ディラン。……あなたの元実家と、元職場の人たちが、大挙して押し寄せてきたわよ」
水晶に映っているのは、殺気立った王国の軍勢。
先頭には、金ピカの鎧(ただし整備不良で薄汚れている)を着た新勇者カエルの姿がある。
『魔王ディランを出せぇぇぇ! 正義の鉄槌を下してやるぅぅ!!』
スピーカー越しに、カエルの情けない怒鳴り声が聞こえてくる。
「……魔王、ねぇ」
俺は苦笑した。
「ちょうどいい。今日は『実技演習』の日だったな」
「ええ。生徒たちに、動く標的が必要だと思っていたところよ」
俺とソフィアは顔を見合わせ、邪悪な笑みを浮かべた。
「全校生徒に告ぐ。これより、校外学習を行う。地上に現れた『害虫』を駆除し、自分たちの平和な学び舎を守り抜け。 ……成績優秀者には、デザートのプリンを増量する!」
その放送が流れた瞬間。
学園中から「うぉぉぉぉぉ!!」という、地上の軍勢よりも遥かに凄まじい雄叫びが上がった。
(第17話 終わり)




