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第143話 終わらない新婚旅行 空飛ぶスイートルームで愛を叫ぶ

 静かだ。


 鼓膜が痛くなるほどの静寂が、豪華客船(飛空艇)のスイートルームを包んでいた。


 眼下には雲海が広がり、窓の外には満天の星空が輝いている。


 ディランは、ふかふかのソファに深く腰を沈め、グラスに入った琥珀色の液体を揺らしていた。


 昨日まで、朝から晩まで怒号と爆発音と赤ん坊の泣き声が響き渡っていたのが嘘のようだ。


「……本当に、誰も追ってこないんだな」


 俺がポツリとこぼすと、背後からふわりと甘い香りが漂ってきた。


「ええ。私たちの有能すぎる子供たちが、見事に国を回しているようですわ」


 第一夫人セレスティアだ。


 彼女はいつものカッチリとした執務服ではなく、艶やかなナイトガウンを羽織り、俺の隣に腰を下ろした。


 そして、トレードマークの銀縁眼鏡を外し、俺の肩にコトンと頭を預ける。


「たまには、こうして肩の力を抜くのも悪くありませんね」


「全くだ。……まさかクーデターを起こされて、強制的に休暇を取らされるとは思わなかったけどな」


 俺が苦笑すると、今度は逆側のソファが深く沈み込んだ。


「む。ディラン、セレスティアばかりズルいぞ。我にも構え」


 魔王ヴェルザードが、不満げに唇を尖らせながら俺の左腕に抱きついてきた。


 普段のジャージ姿(おばちゃん装備)はどこへやら、魔王らしい漆黒のネグリジェ姿が、彼女の白い肌を際立たせている。


「お前もすっかり母親の顔になったな、ヴェルザード」


「ふん。我はいつだって威厳あふれる魔王じゃ。……だが、今夜だけは、ただのお前の『妻』でいてやる」


 彼女が顔を赤らめて目を伏せた瞬間。


 ドスッ。


 俺の背中に、心地よい(しかし少し重い)衝撃が走った。


「ディラン様! 私もいますよ!」


 背もたれの後ろから抱きついてきたのは、聖騎士アリシアだ。


「この結界に守られた飛空艇なら、どれだけ大きな声を出しても、どれだけ激しく動いても、絶対に壊れません! つまり、物理的に愛を表現し放題です!」


「いや、飛空艇は壊れなくても俺の骨が壊れるから! 手加減してくれよ!」


 俺の悲鳴に、部屋の奥からクスクスという笑い声が聞こえた。


「もう、アリシアさんは相変わらずですね。……ディラン様、骨が折れたら私がすぐに治して差し上げますから、安心してくださいな」


 元聖女ノエルが、ティーセットを乗せたワゴンを押して現れた。


 彼女の笑顔は相変わらず慈愛に満ちているが、言っていることは相変わらず物騒(オーバーヒール前提)だ。


「よしよし。疲れが溜まっているなら、膝枕をしてあげますよ? 今日は子供たちがいませんから、ディラン様が私の一番の『赤ちゃん』です」


 ノエルが魅惑的な太ももをポンポンと叩く。


「……データ照合完了。ディランの心拍数およびドーパミン分泌量が、平常時の500%を突破している」


 さらに、タブレット端末を持った大賢者ソフィアが、白衣の下に際どいランジェリーを覗かせながら歩み寄ってきた。


「フフッ。やはり私の計算通りだ。……この密室空間において、私たち六人のアプローチを同時に受ければ、お前の理性が崩壊するのは時間の問題だな」


「分析しなくていいから! 恥ずかしいだろ!」


 俺が顔を真っ赤にして叫ぶと、最後に現れた秘書天使メルが、完璧なタイミングで冷たいおしぼりを俺の額に当てた。


「主殿。お顔が熱を持っています。クールダウンを」


「お、おう。サンキュー、メル」


「いえ。……ただし」


 メルは眼鏡をクイッと押し上げ、妖艶な笑みを浮かべた。


「クールダウンするのは今だけです。……先ほど、この飛空艇の自動操縦システムを『一ヶ月間、絶対に止まらないモード』にロックしてきました」


「えっ」


「つまり、一ヶ月間は誰も来ませんし、どこにも逃げられません。……私たちのスケジュールは、今から720時間、すべて『ディラン様との愛の営み』で埋まっています」


「な、ななひゃくにじゅうじかん!?」


 俺は叫んだ。


 6人の妻たちが、ぐるりと俺を取り囲む。


 セレスティアの知的な微笑み。


 アリシアの情熱的な瞳。


 ノエルの底なしの母性。


 ソフィアの探究心に満ちた視線。


 ヴェルザードの魔王としての独占欲。


 メルの完璧なスケジュール管理(という名の拘束)。


 思い返せば、職業選定で『遊び人』三連発を引き当てて国を追放された時は、どうなることかと思った。


 だが、そのおかげで全ての職業のスキルを重ねがけするバグに気づき、このダンジョンを作り、彼女たちと出会うことができた。


 神童と呼ばれた過去の栄光なんて、どうでもいい。


 今の俺は、間違いなく世界で一番、幸せな(そして苦労の絶えない)男だ。


「……ディラン様」


 セレスティアが、俺の頬にそっと手を添えた。


「覚悟は、よろしくて?」


「……ああ」


 俺はグラスをテーブルに置き、妻たちを見渡した。


「降参だ。俺は一生、君たちに敵わないよ」


「「「ふふっ」」」


 妻たちの笑い声が重なる。


 そして、星空の下を飛ぶ豪華客船は、世界で最も甘く、激しい愛の巣へと変わった。


 この新婚旅行がいつ終わるのか、それは神(と有能すぎる子供たち)のみぞ知る。


 ただ一つ確かなことは、俺の『遊び人』としての冒険は、彼女たちと共に永遠に続いていくということだ。


(第144話:最終回 遊び人、永遠に遊ぶ。……三年後のダンジョン国。すっかり成長した子供たちと、少しも変わらない妻たち。ディランの出した『最後の答え』とは?)


※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。

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