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第140話 完璧すぎる秘書の『裏切り』 その夜、麒麟も妻たちも眠っていた

「……ふぅ。これで本日のトラブル対応、全て完了です」


 深夜の執務室。


 秘書天使メルが、分厚いファイルをパタンと閉じた。


 今日一日の彼女の働きは、まさに鬼神の如きものだった。


 午前中、ダンジョン農園に伝説の神獣『麒麟』が現れ、作物を食い荒らすという事件が発生した。


 普通なら国を挙げての討伐戦になるところだが、メルは違った。


『麒麟様ですね。……居住区申請と納税の手続きをお願いします。あ、毛並みのブラッシングと極上野菜の定期便をご希望で? ……承知しました。では、こちらの契約書に蹄判を』


 彼女は笑顔と事務処理だけで麒麟を手懐け、なんと「農園の守護獣」として再就職させてしまったのだ。


 午後には、ソフィアの産んだ「卵(赤ちゃん)」の魔力暴走を抑え込み、夕方にはヴェルザードとノエルの育児シフトを完璧に調整。


 そのあまりの有能さに、妻たちは完全に気を許していた。


「メルさん、貴女は救世主ですわ……。今日はもう疲れました。ディラン様の寝かしつけ、任せてもよろしくて?」


 セレスティアがあくびを噛み殺しながら言う。


「もちろんです。皆様はゆっくりお休みください。……主殿のケアは、私が『責任を持って』行いますので」


 メルは眼鏡の奥で、キラリと光る瞳を隠して一礼した。


 誰も気づいていなかった。


 彼女が、この瞬間を虎視眈々と狙っていたことに。


     ◇


 そして、深夜の寝室。


 ディランは、ベッドの上で泥のように疲れていた。


「……あぁ、生き返る……」


 メルが入れてくれたハーブティーを飲み、彼女のマッサージを受けながら、俺は呟いた。


「メル。今日は本当に助かったよ。麒麟まで手懐けるなんて」


「お役に立てて光栄です、主殿」


 メルは俺の背中を優しく指圧しながら、耳元で囁いた。


「ですが……主殿。お忘れではありませんか?」


「ん?」


「私は『秘書』である前に、貴方の『第6夫人』です」


 彼女の手の動きが変わった。


 事務的な指圧から、熱を帯びた、這うような愛撫へと。


「……メ、メル?」


 俺が振り返ると、そこには眼鏡を外し、少しだけ乱れたブラウスの胸元を見せるメルの姿があった。


 いつもの「鉄壁の秘書」の顔ではない。


 潤んだ瞳で獲物を見つめる、一人の「女」の顔だった。


「み、みんなが起きるぞ……」


「起きません。……セレスティア様たちの寝室には、強力な『安眠結界』を張っておきました。麒麟も爆睡しています」


 メルは妖艶に微笑み、俺の胸に手を置いた。


「つまり、今夜は朝まで……誰にも邪魔されません」


 ドクンッ。


 俺の理性が揺らぐ。


 彼女の献身、知性、そして隠された美貌。


 毎日俺を支えてくれる彼女に、俺はずっと惹かれていたのだ。


「……主殿。……いえ、ディラン様」


 彼女は俺の唇に指を当てた。


「事務的な関係は、もう終わりです。……今夜は、計算もスケジュールも関係ない……ただの愛を、ください」


「……ああ」


 俺は彼女を引き寄せた。


 抗えるはずがなかった。


 俺たちは、深い口づけを交わし、そのままシーツの海へと沈んでいった。


 彼女の愛は、仕事と同じく完璧で、そして情熱的だった。


 俺の全てを受け入れ、包み込み、そして搾り取る。


 心も体も、俺は完全にメルの虜になっていた。


     ◇


 翌朝。


 バンッ!!


「ディラン様! 麒麟の朝食メニューについて相談が……」


 セレスティアと他の妻たちが、寝室の扉を開けた。


 そこで彼女たちは、信じられない光景を目にした。


 ベッドの上で、幸せそうに眠るディランと、その腕の中でまどろむメルの姿を。


 そして、空中に浮かぶシステムウィンドウを。


【システム通知:おめでとうございます! 個体名メルのお腹に、新たな『生命反応』を確認しました】


【種族:半天使ネフィリム 状態:受胎確認 父:ディラン】


 しん……と静まり返る寝室。


「……ん、んん……?」


 メルがゆっくりと目を開けた。


 彼女は状況を把握すると、慌てることもなく、眼鏡をかけてニッコリと微笑んだ。


「おはようございます、皆様。……ご報告があります」


 彼女はお腹を愛おしそうに撫でた。


「昨夜の『残業』の成果により……無事、ディラン様との『既成事実(愛の結晶)』の確保に成功しました」


「「「はあああああああ!?」」」


 妻たちの絶叫が響き渡る。


「ぬ、抜け駆けですわ! あんなに仕事熱心なふりをして!」


「メルちゃん!? いつの間に!」


「計算通り……いえ、計算以上です」


 メルは勝ち誇った顔で、呆然とする俺にキスをした。


「これで私も、名実ともにこの家の『ママ』ですね。……ふふ、育児休暇の申請書、作っておかなくちゃ」


 麒麟すら手懐けた彼女の手腕に、俺が敵うはずもなかった。


 こうして、第140番目の騒動――『秘書の懐妊』により、ダンジョン国のベビーブームはさらに加速することになったのである。


(第141話:妊婦たちの仁義なき戦い。……「誰の子供が一番可愛いか」でマウントを取り合う女神、大賢者、そして秘書天使。ディランの胃に穴が開く日)


 ※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。

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