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第138話 天使の気遣い、魔王の空気読めなさ ダンジョンデートは爆発オチ

「ディラン! 大変じゃ! 子供たちが『深淵のラスト・ダンジョン』に向かったそうじゃ!」


 昼下がりの執務室。


 魔王ヴェルザードが、血相を変えて飛び込んできた。


 彼女の手には、神の赤ちゃん(アルテミスの子)が書き残した『パパへのプレゼントをとってくる!』という、ミミズがのたうち回ったような置き手紙が握られている。


「な、なんだって!? あそこはレベル999の魔物がうろつく危険地帯だぞ!」


 ディランは椅子から跳ね起きた。


 いくら神の子供とはいえ、まだオムツも取れていない幼児だ。放置すれば、ダンジョンの生態系が崩壊する(主に魔物側が)。


「すぐに行くぞ! ヴェルザード、転移魔法を!」


「うむ。……と言いたいところじゃが、我は少し『野暮用』がある」


 ヴェルザードは、なぜかそわそわと視線を泳がせた。


「野暮用? 子供の一大事だぞ!?」


「分かっておる! だが、商店街の『タイムセール』があと5分で終わるのじゃ! 限定の『極上プリン』を逃せば、我は一生後悔する!」


「母親の自覚を持てぇぇぇ!!」


「ええい、うるさい! 先に行ってておれ! メル、ディランを頼んだぞ!」


 シュバッ!


 ヴェルザードは俺とメルをダンジョンの入り口に転移させると、自分は商店街の方角へ音速で消えていった。


「……あいつ、本当に魔王か?」


 俺が呆然としていると、横からスッとハンカチが差し出された。


「汗を拭いてください、主殿マスター。……あの人の奔放さは今に始まったことではありません」


 秘書天使メルが、涼やかな顔で微笑んでいた。


 彼女はすでに冒険用の軽装に着替え、手には地図と水筒、そして俺の好みの武器を準備していた。


「さあ、参りましょう。……お子様たちの足取りは、私の『千里眼』で捕捉済みです」


     ◇


 ダンジョン深層部への道中。


 そこは、俺にとって予想外の『癒やし空間』となった。


「主殿、足元がぬかるんでいます。お手を」


「あ、ありがとう」


「喉が渇きましたか? 特製のアイスコーヒーです。ガムシロップは2つですよね?」


「お、おう。完璧だ」


 メルは、まさに『マジ天使』だった。


 襲い来る魔物は、俺が気づく前に彼女が(笑顔で)処理し、道中の罠は全て解除済み。


 俺はただ、彼女にエスコートされながら、ハイキング気分で歩くだけだ。


「……すごいな、メルは。仕事もできて、気遣いも完璧で」


 俺が感心して呟くと、メルは少し頬を染めて立ち止まった。


「……恐縮です。でも、私が頑張れるのは、主殿が見ていてくださるからです」


 彼女は、俺の服についた埃を払いながら、上目遣いで見つめてきた。


「セレスティア様のような統率力も、ヴェルザード様のような武力も、私にはありません。……ですが、貴方を一番近くで支えることだけは、誰にも負けたくないのです」


 薄暗いダンジョンの中で、彼女の瞳だけが宝石のように輝いている。


 ドクン。


 俺の心臓が跳ねた。


 これは、ずるい。


 普段は事務的な彼女が見せる、ふとした瞬間の献身とデレ。


 吊り橋効果も相まって、俺の好感度メーターは爆上がりしていた。


「メル……」


「主殿……」


 二人の顔が近づく。


 子供たちの救助という目的を一瞬忘れ、俺たちは良い雰囲気になった。


 このままキスでもしてしまうのではないか。


 そんな甘い予感が脳裏をよぎった、その時だった。


 ズドォォォォォン!!!!!


 天井が崩落した。


「ぬはははは! 間に合ったぞ! プリンも確保したわ!」


 粉塵の中から現れたのは、両手にスーパーの袋を提げ、口の周りにプリンの食べかすをつけた魔王ヴェルザードだった。


「ヴ、ヴェルザード!?」


「なっ……!?」


 俺とメルは飛び退いた。


 良い雰囲気は、爆風と共に木っ端微塵に吹き飛んだ。


「む? 何を顔を赤らめておるのじゃ、お主ら。……まさか、サボってイチャついていたのではあるまいな?」


 ヴェルザードがジト目で睨んでくる。


「ち、違う! お前がいきなり落ちてくるから驚いただけだ!」


「ならよい。……急ぐぞ! 子供たちの反応が近い! まったく、とろとろ歩きおって!」


 彼女は俺の襟首を掴み、問答無用で引きずり始めた。


「ちょ、待て! 首が締まる!」


「問答無用! 魔王特急じゃ!」


 グエェェェ……。


 俺はボロ雑巾のように引きずられていく。


 その後ろ姿を、メルが「チッ」と舌打ち……いや、ため息交じりに見つめていた。


「……はぁ。あと3センチだったのに」


 メルは眼鏡の位置を直し、すぐに「有能な秘書」の顔に戻った。


「主殿、舌を噛まないように。……ヴェルザード様、右側の壁にトラップがあります。強行突破してください」


「おうよ!」


 ドガガガガ!


 壁を破壊しながら進む魔王。


 それを冷静にナビゲートする天使。


 俺は白目を剥きながら思った。


 ……ヴェルザードは、やっぱり魔王(空気クラッシャー)だった。


 そしてメルは、どんな状況でも俺を支えてくれる、本物の天使だった。


 でも、もし次に二人きりになれたら、今度こそあの「続き」を……。


 そんな淡い期待は、目前に現れた『子供たちが改造したダンジョンボス(おもちゃ)』の咆哮によって、かき消されるのだった。


(第139話:深淵の底で待っていたもの。……パパへのプレゼントは『伝説の聖剣』ではなく、子供たちが拾ってきた『謎の巨大卵』だった? 孵化したら世界が終わる?)


 ※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。

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