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第134話 正妻の逆襲 その愛は『絶対防御(物理)』

「……最近、出番がありません」


 ある日の午後。


 王城のテラスで、第一夫人にして聖騎士団長のアリシア・フォン・ヴァルトが、重いため息をついていた。


 彼女の周りには、どんよりとした空気が漂っている。


 手には、自分で書いた『今月のヒロイン活躍グラフ』が握りしめられていた。


「見てください、これ。……メルさんが来てから、私の稼働率が30%も低下しています」


 彼女が指差すグラフは、見事な右肩下がりだった。


 ディランは冷や汗をかきながら、愛妻の機嫌を取ろうと試みる。


「そ、そうかな? アリシアはいつだって俺の心の中で一番だぞ?」


「口先だけです! ……昨日はメルさんにスケジュール管理され、夜はヴェルザードさんに子供の夜泣き対応を任せ、お風呂ではルナさんに背中を流されていましたよね?」


 アリシアの目が据わっている。


「私の役目は? ……『壁』ですか? それとも『筋肉』ですか?」


「いや、そんなことは……」


「決めました」


 ガシャーン!!


 アリシアが立ち上がると同時に、全身から金色のオーラが噴き出した。


 彼女は、愛用の聖剣エクスカリバー・レプリカを抜き放ち、高らかに宣言した。


「原点回帰です。……私がなぜ『正妻』なのか。そしてなぜ『最強の聖騎士』なのか。……その真髄を、ディラン様(と読者)に思い出させて差し上げます!」


「え? 何をする気……」


「スキル発動――【聖なる妻の結界マイ・スイート・ホーム】!!」


 ズズズズズンッ……!


 俺とアリシアを中心として、半径2メートルの空間が、輝く光の壁によって遮断された。


 それは、あらゆる物理干渉、魔法干渉、そして『他のヒロインの干渉』を拒絶する、絶対不可侵領域。


「な、なんだこれは!?」


「愛の巣です♡」


 アリシアが、俺の腕にガシッと抱きついた。


 その力は、ドラゴンのあぎとよりも強く、絶対に離れないという意志に満ちている。


「この結界は、私の『愛の重さ』に比例して強度が増します。……つまり、今の私には核爆発でも傷一つつけられません」


「そ、そうか。すごいな。……で、いつ解除するんだ?」


「しません」


 アリシアは、満面の笑み(目は笑っていない)で即答した。


「今日一日、私はディラン様と『密着』して過ごします。……トイレもお風呂も、執務中も、ずーっと一緒です♡」


「はあああああ!?」


 俺の悲鳴が結界内に木霊する。


     ◇


 事件はすぐに発覚した。


 執務室に向かおうとする俺(with アリシア)の前に、スケジュール帳を持ったメルが立ち塞がったのだ。


「……主殿。その格好(くっついた状態)では、午後の会議に出られません。解除してください」


「無理だメル! 剥がれないんだ!」


「……やれやれ。では、強制執行します」


 メルが指を鳴らすと、控えていたレオン(第二夫人監視中)たちが武器を構えた。


「悪いなディラン! 俺たちも嫁の機嫌取りで必死なんだ!」


「いざ、実力行使!」


 レオンの聖剣技、イグニスの炎、ザインの暗殺剣が同時に放たれた。


 だが。


 カキィィィィン!!


 全ての攻撃は、アリシアの張った『愛の結界』に弾かれた。


 傷一つない。


「無駄です」


 アリシアが冷ややかに言い放つ。


「貴方たちの攻撃など、私のディラン様への愛に比べれば『そよ風』以下。……私の愛は、オリハルコンよりも硬いのです!」


「物理的に重いんだよおおお!」


 レオンたちが吹き飛ばされる。


 続いて現れたのは、魔王ヴェルザードだ。


「ええい、邪魔じゃ! ディランは今から子供のオムツ替えを手伝うのじゃ!」


 彼女は『極大消滅魔法ギガ・デリート』を放った。


 世界を削り取る黒い閃光。


 しかし。


 ジュッ。


 結界に触れた瞬間、魔法は霧散した。


「な、なにぃ!?」


「不純です」


 アリシアが睨みつける。


「ヴェルザードさん。貴女はディラン様を『育児要員』として見ていますね? そんな不純な動機で、私の『純愛』は貫けません」


「ぐぬぬ……! なんという理不尽な防御力……!」


 魔王さえも敗退した。


 最強の聖騎士が、その能力を「独占欲」だけに使った時、彼女は無敵の要塞と化すのだ。


     ◇


 それから数時間。


 俺は地獄を見ていた。


「あーん♡ はい、マヨネーズたっぷりのサンドイッチですよ」


「むぐぐ……(カロリーが……)」


「お水ですか? 口移しであげますね♡」


「んぐっ……(息ができない……)」


 トイレに行く時も一緒。


 書類を書く時も、利き腕に彼女がぶら下がっているため、ミミズのような文字しか書けない。


 そして何より、彼女の瞳孔が開いた目で見つめられ続けるプレッシャーで、俺の精神は摩耗していた。


「……どうですか、ディラン様」


 夕暮れ時。


 アリシアが、うっとりとした声で囁いた。


「これが『メインヒロイン』の力です。……メルさんの事務処理も、ノエルさんの癒やしも素晴らしいですが……最後まで貴方を『守り抜く(監禁する)』ことができるのは、私だけですよね?」


 彼女の問いかけに、俺は悟った。


 ここで否定すれば、この結界は一生解除されない。


 俺は覚悟を決め、彼女を抱きしめ返した(結界内なので距離ゼロ)。


「……ああ、そうだ。アリシア」


 俺は、彼女の耳元で囁いた。


「お前の『硬さ』と『重さ』は世界一だ。……俺には、お前という盾が必要だよ(物理的な意味で)」


「ディラン様……♡」


 アリシアの頬が緩む。


 パリンッ。


 満足した彼女の集中力が途切れ、ようやく結界が砕け散った。


「っぷはぁぁぁ! 空気が美味い!」


 俺は酸素をむさぼった。


 そこへ、待ち構えていたセレスティアとメルが駆け寄ってくる。


「お疲れ様でした、ディラン様。……アリシアさんのガス抜き、完了ですね?」


「ああ……。死ぬかと思った……」


 俺はへたり込む。


 その横で、アリシアは久しぶりに「正妻の座」を満喫し、満足げにマヨネーズを吸っていた。


 こうして、アリシアの存在感(物理)は証明された。


 ただ、その代償として、王城の床の一部が「愛の重さ」で陥没したことは、経費削減に命をかけるメルを激怒させることになった。


(第135話:お忍びデートは波乱の予感。……アリシアと二人で街へ出かけたら、彼女が『不審者(他の女)』を全員タックルで吹き飛ばすデートになった件)


 ※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。

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