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第132話 始原のバブみ 『聖女』はすべてを包み込む

「……ふぅ。さすがに、少し腕が疲れましたわ」


 ルナが額の汗を拭った。


 彼女のスキル【聖母の抱擁】により、一時的に沈静化していた幼児軍団だったが、神の赤ちゃん(アルテミスの子)を筆頭に、徐々に「耐性」を持ち始めていた。


「バブッ!(ミルクのおかわりだ!)」


「抱っこー! もっと高い高いしてー!」


 子供たちの要求はエスカレートしていく。


 ルナ一人では、数百人の魔物幼児と、底なしのスタミナを持つ神の赤ちゃんを相手にするには限界があった。


「くっ……! ルナの『バブみ』をもってしても、制圧しきれないのか!?」


 ディランは焦った。


 このままでは、ルナの体力が尽き、再び学級崩壊が始まってしまう。


 その時だった。


 カツ、カツ、カツ……。


 保育園の奥にある園長室から、静かな足音が響いた。


 現れたのは、純白のエプロンドレスに身を包んだ、この保育園の園長――第3夫人ノエルだった。


「……あらあら。ルナちゃん、少し手こずっているようですね」


 ノエルは慈愛に満ちた笑顔を浮かべている。


 だが、その背後には、聖女時代を遥かに超える神々しい後光が差していた。


「も、申し訳ありません、師匠マスター……!」


 ルナが膝をつく。


「私の未熟な『バブみ』では、彼らの野性を完全に浄化できませんでした……」


「いいえ、よくやりました。……ですが、甘やかすだけが『教育バブみ』ではありませんよ?」


 ノエルが、ゆっくりと両手を広げた。


 その瞬間、保育園の天井が消え(たように見え)、空から無数の光の羽が降り注いだ。


 スキル【聖域展開・無償のエデン・オブ・ママ】。


 それは、対象を強制的に「胎内回帰」させる、世界最強の精神干渉魔法。


「さあ、みなさん。……『お歌』の時間ですよ~」


 ノエルが歌い出す。


 それは、ただの子守唄ではない。


 かつて傷ついた勇者たちを癒やし、凶暴なドラゴンさえも眠らせた『聖なる歌声』に、禁断の母性魔力を上乗せした戦略級音響兵器。


「ねんねん~ころりよ~♪ おころりよ~♪」


 ドサッ。ドサッ。


 立っていたオークの子供たちが、糸が切れたように倒れ込む。


 彼らの顔には、この世の全ての苦しみから解放されたような、至福の表情が浮かんでいた。


「バ、バブ……!?(な、なんだこの抗えない眠気は……!?)」


 神の赤ちゃんが必死に目を開けようとする。


 だが、ノエルの歌声は、神の抗魔力さえも透過して、魂の深淵にある「甘えたい本能」を直接撫で回してくる。


「坊やは~よい子だ~♪ ねんねしな~♪」


「……あ……う……」


 神の赤ちゃんが、ガラガラを取り落とした。


 そして、自ら親指をくわえ、ノエルの足元にハイハイで向かっていく。


 完全降伏。


 だが、被害はそれだけではなかった。


「……う、うわぁぁぁ……」


 見学していた俺の隣で、レオンとイグニス、そしてザインが膝から崩れ落ちた。


「ディラン……。お、俺……もう戦えない……」


「剣も……魔法も……いらない……。ただ、ママに褒められたい……」


 歴戦の勇者たちが、涙を流してノエルを拝んでいる。


 彼らの戦意は完全に溶かされ、ただの「大きな赤ちゃん」に成り下がっていた。


「……ッ! お、俺まで……!」


 俺も視界が霞む。


 思考力が低下し、「国とかどうでもいいから、ノエルの胸で眠りたい」という欲求が脳を支配していく。


 これが、ルナの師匠。


 「男をダメにする」のではなく、「男を生まれたての無垢な存在に還す(リセットする)」という、究極の救済者。


「ふふふ。……さあ、みんな一緒におやすみなさい」


 ノエルが歌い終えると、保育園は静寂に包まれた。


 そこには、スヤスヤと眠る数百人の魔物幼児と、同じように床で丸まって指をしゃぶる国の最高幹部おっさんたちの姿があった。


「……さすがです、師匠」


 唯一、耐性を持っていたルナが、震える声で称賛する。


「私など、まだまだヒヨッコでした。……これが、『本家』の力……」


「あら、ルナちゃんも疲れたでしょう?」


 ノエルがルナの頭を優しく撫でた。


「……あなたも、ここでは『女の子』に戻っていいのですよ?」


「……! あ、ああ……ノエルお姉さまぁ……」


 ルナまでもが陥落した。


 彼女はノエルのエプロンに顔を埋め、甘え始めた。


 俺は、薄れゆく意識の中で思った。


 ……この国は、もう終わりだ。


 軍事力も、経済力も、全てはこの『聖女の母性』の前には無意味だ。


 世界征服を企む魔王などより、エプロン姿のノエルの方が、よほど世界にとって脅威(平和的意味で)なのではないか、と。


 その日、ダンジョン国の全機能が6時間ほど停止した。


 後に『聖女の午睡シエスタ』と呼ばれる、平和すぎる事件であった。


(第133話:目覚めた後の賢者タイム。……正気に戻ったレオンたちが「俺はなんてことを!」と絶望する中、ノエルだけが「またいつでもどうぞ♡」と微笑む恐怖)


 ※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。

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