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第131話 最終兵器『バブみ』 その時、二人の男が戦慄した

「……ふぅ。……さすがに疲れたわ」


 ヒョウ柄の魔王ヴェルザードが、パイプ椅子に座り込んで荒い息を吐いていた。


 『大阪のおばちゃん作戦』は成功したかに見えた。


 だが、神の赤ちゃん(アルテミスの子)を筆頭とする幼児軍団は、底なしのスタミナと適応力を持っていた。


 飴ちゃんも、ミカンも、ヤクルトも、全て食い尽くされた。


 物資が尽きた今、彼らの瞳には再び「退屈」と「破壊衝動」の炎が宿り始めていた。


「キャハハ! おばちゃん、もう弾切れー?」


「バブー!(次はもっと刺激的な遊びを要求する!)」


 神の赤ちゃんが、再びガラガラ(破壊兵器)をチャージし始めた。


 このままでは、第二ラウンドが始まってしまう。


 ヴェルザードも限界だ。このままでは保育園が消し飛ぶ。


「……仕方ありませんね」


 その時。


 保育園の入り口から、おっとりとした声が響いた。


 現れたのは、ピンク色のエプロンを着けた、優しげな女性。


 ザインの妻、ルナだった。


「ル、ルナ……?」


 ディランが声をかけると、彼女は聖母のような微笑みを浮かべた。


「ヴェルザード様、お疲れ様です。……ここからは、私の出番ですわ」


 彼女が一歩、プレイルームに足を踏み入れた瞬間。


 ガタガタガタッ……!


 俺の背後で、二人の男が震え出した。


 ザインとレオンだ。


「お、おいザイン……。お前の嫁さん、なんか空気が違わねぇか……?」


 レオンが顔面蒼白で尋ねる。


「……逃げろ、レオン。……あれは『領域フィールド』だ」


 ザインは、かつてないほどの恐怖に瞳孔を開いていた。


「俺は毎晩、あれを喰らっている。……あれは暴力じゃない。精神こころの防壁を溶かす、禁断のミルクだ……!」


「え?」


 ザインの警告は遅かった。


 ルナが、暴れる幼児たちの中心で、両手を広げた。


「さあ、みんな~。……こっちにいらっしゃい~♡」


 ドプンッ……。


 空気が変わった。


 重力が増したわけでも、威圧されたわけでもない。


 ただ、世界が急激に『暖かく』、『柔らかく』、『甘い』色に染まったのだ。


 スキル【聖母の抱擁アルティメット・バブみ】。


 それは、対象の年齢、種族、社会的地位を無視し、強制的に「幼児退行」させる精神汚染(癒やし)攻撃。


「バブッ!?(な、なんだこのプレッシャーは!?)」


 神の赤ちゃんが動きを止めた。


 攻撃しようとする闘争本能が、急速に萎えていく。


 代わりに湧き上がってくるのは、「甘えたい」「抱っこされたい」「ミルク飲みたい」という原初的欲求。


「あらあら、怖い顔して。……寂しかったのでちゅね~?」


 ルナが瞬歩(元暗殺者のスキル)で距離を詰め、神の赤ちゃんを抱き上げた。


 その手つきは、熟練の職人のように滑らかで、逃れる隙がない。


「バブー!(は、離せ! 我は神の血を引く……)」


「よしよし、いい子いい子~。……おむつも気持ち悪かったね~。変えまちゅよ~」


 シュバババッ!


 神速のおむつ替え。


 そのあまりの快適さに、赤ちゃんの抵抗が止まる。


「……バブゥ……(あ、そこ……気持ちいい……)」


「はい、ミルクですよ~」


 口元に哺乳瓶が差し込まれる。


 それはただのミルクではない。ルナの愛情(魔力)が込められた、思考停止必至の特製ミルクだ。


 チュパ……チュパ……。


 神の赤ちゃんの目が、とろ~んと溶けていく。


 それを見た他の子供たちも、次々と戦意を喪失していった。


「ぼ、僕も……」


「抱っこ……」


「……ママぁ……」


 オークもゴブリンも、次々とルナの足元に集まり、膝に頭を擦り付け始めた。


 そこにはもう、破壊衝動など微塵もない。


 ただひたすらに母性を貪る、無力な赤子たちの群れがあるだけだった。


「ひぃっ……! ぜ、全滅だと……!?」


 レオンが腰を抜かした。


 ヴェルザードの『威圧』も、ヒョウ柄の『インパクト』も効かなかった最強幼児軍団が、たった一人の主婦に無力化されている。


「……言っただろう、レオン。……あれからは、誰も逃げられない」


 ザインが遠い目で呟いた。


「あら? ザインちゃん?」


 ルナが、こちらに気づいた。


 彼女は、神の赤ちゃんを左手で抱いたまま、右手でザインを手招きした。


「パパもどうしたの? ……また『赤ちゃん返り』したくなったの?」


「!!」


 ザインの体が硬直する。


「い、いや、俺は今は仕事中だから……」


「駄目ですよ、強がっちゃ。……顔に『甘えたい』って書いてありますぅ♡」


 ルナの背後から、ピンク色のオーラ(触手のような母性)が伸びてくる。


「ひぃぃぃ! や、やめろぉぉぉ! 俺は一応、自警団長で……バブッ!?」


 ザインは抗えなかった。


 吸い込まれるようにルナの元へ歩み寄り、気づけば子供たちと並んで膝枕されていた。


「レオンちゃんも、仲間に入れてあげまちゅか?」


「うわあああ! 勘弁してくれぇぇぇ!!」


 レオンは脱兎のごとく逃げ出した。


 だが、その背中には冷や汗がびっしょりと張り付いていた。


 最強の幼児たちを黙らせ、歴戦の戦士を一瞬で幼児化させる『バブみ』。


 それは、核兵器よりも恐ろしく、そして甘美な、ダンジョン国最大の防衛システムだったのだ。


「……恐ろしい国だ」


 俺は、幸せそうに(そして廃人のように)眠る子供たちとザインを見ながら、深く心に誓った。


 絶対に、ルナだけは敵に回してはいけない、と。


(第132話:そして保育園は『楽園』になった。……ルナ先生のバブみ授業により、魔物の子供たちが全員『おっとり系』に育ってしまう誤算)


 ※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。

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