第13話 畑が広がりすぎたので、国に見捨てられた『開拓村』ごと引っ越してもらうことにした
ベヒーモスを耕運機にしたおかげで、我が拠点の農地は東京ドーム数個分にまで拡大していた。
だが、ここで新たな問題が発生した。
「……手が回らん」
リビングでコーヒーを飲みながら、俺は呟いた。
収穫、種まき、水やり。そして広すぎる屋敷の掃除、洗濯。
すべてを俺たちのメンバーだけで回すのは限界がある。
「そうですね……。私も剣の手入れより、ジャガイモの皮むきをしてる時間の方が長いです」
アリシアが遠い目をしている。
最強の聖騎士を家政婦にするのは、さすがにコストパフォーマンスが悪すぎる。
「よし。国民(労働力)を連れてくるか」
「連れてくるって……どこから?」
レオンが尋ねる。
俺はニヤリと笑い、空中にウィンドウを展開した。
「地上だ。……今、王都の混乱のせいで、地方の村は見捨てられ、困窮しているはずだ。そこを『スカウト』する」
俺は管理者権限で検索をかけた。
検索条件:【困窮】【王国の放棄】【農業スキル持ち】【勤勉】
ピコン。
一件のヒット。
場所は、北の国境付近にある『開拓村』だ。
あそこは先日、俺が結界メンテを辞めたせいで防衛ラインが下がり、魔物の脅威に晒されて孤立しているはずだ。
「行くぞ。引っ越し作業だ」
俺は空間魔法の上位互換、【転移門】を開いた。
◇
北の国境、開拓村。
そこは地獄の淵にあった。
村の周囲をオークの群れが包囲し、防壁は今にも崩れそうだ。
「くそっ、王都からの救援はまだか!?」 「もう三日も連絡がない! 見捨てられたんだ!」
村長が悲痛な叫びを上げる。
食料も尽き、武器もない。村人たちは互いに身を寄せ合い、死を覚悟していた。
その時。
ヒュンッ!!
村の広場に、巨大な『黒い扉』が出現した。
「な、なんだあれは!? 魔物の新型か!?」
村人たちが絶望した瞬間、扉の中からぞろぞろと人影が現れた。
先頭には、黒髪の男。
後ろには、伝説の剣聖レオン、大賢者ソフィア、そして美しい聖騎士。
「……ひどい有様だな」
男――ディランが、周囲のオークを見回して鼻を鳴らす。
「レオン、アリシア。掃除だ」
「了解!」 「お任せを!」
二人が駆け出した瞬間、包囲していた百匹のオークは、瞬きする間に肉片へと変わった。
圧倒的な暴力。神の如き強さ。
呆然とする村長に、ディランが歩み寄る。
「あ、あなたがたは……? 王都からの救援部隊ですか?」
「いいや。俺たちは王都とは無関係だ。むしろ、あんな国はもうすぐ終わる」
ディランは淡々と言い放った。
「単刀直入に言うぞ。 この村は、もう持たない。国はお前たちを見捨てた。 だが、俺の国なら、安全と衣食住を保証してやる」
「な、なにを……」
「条件は一つ。俺のために働け。畑を耕し、家畜を育てろ。 そうすれば、腹一杯の飯と、オークに怯えない夜を約束する」
ディランが背後のゲートを指差す。
その向こうには、黄金色の小麦畑と、白亜の巨城が見えた。
村人たちは顔を見合わせた。
ここに残れば死ぬ。
ついていけば、怪しいが助かるかもしれない。
答えは一つだった。
「……行きます! どうか、私たちを連れて行ってください!」
村長が土下座をする。
「交渉成立だな」
ディランが指を鳴らす。
「ゲート拡大。……村ごと移動させるぞ」
ズズズズズズッ!!
なんと、彼は地面ごと空間を切り取った。
家も、家財道具も、村人百人もろとも。
一瞬の浮遊感の後。
◇
気づけば、彼らは深層70階層の『楽園』にいた。
空調完備の快適な気温。
襲ってくる魔物はいない(迎撃システムが完備)。
そして目の前には、見渡す限りのSランク野菜の畑。
「こ、ここは……天国か?」
「夢じゃないよな? 空気が美味いぞ……」
涙を流す村人たちに、ディランは大量の農具を放り投げた。
「感動してる暇はないぞ。今日からお前たちは俺の領民だ。
さっそく、あの巨大耕運機と一緒に収穫を始めろ」
「「「は、はいぃぃぃぃっ!!」」」
こうして。
我が国に、優秀な農業従事者100名が加わった。
一方、王都では。
「国境の村が消滅した!?」という報告が入り、さらなるパニックが起きていたが、知ったことではない。
貴重な納税者は、すべて俺が頂いた。
(第13話 終わり)




