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第129話 魔王、育児に絶望す そして伝説の『ママ・モード』へ

「……ええい、お主ら! いい加減に静まらぬかぁぁぁ!!」


 ダンジョン国が誇る、世界最高の教育機関『国立ダンジョン保育園』。


 そのプレイルームに、魔王ヴェルザードの悲痛な叫びが響き渡った。


 普段なら、彼女の一喝で魔物たちは震え上がり、静寂が訪れるはずだ。


 だが、今の保育園は違った。


「キャハハ! おばちゃん、うるさーい!」


「バブー!(喰らえ、神罰ビーム!)」


 ドカァァァン!!


 ヴェルザードの横を、極太の破壊光線が通り抜けた。


 撃ったのは、先日産まれたばかりのアルテミスとミカエルの子供――神の赤ちゃんだ。


 背中に生えた小さな翼で飛び回り、ガラガラを振るたびに衝撃波が発生する。


 それに呼応するように、オークやゴブリンの子供たちも暴徒化していた。


「見て見てー! 壁壊れたー!」


「お昼寝なんてしなーい! 革命だー!」


 学級崩壊。


 いや、国家崩壊レベルの暴動である。


「くっ……! なぜじゃ……! なぜ我の『覇王色の威圧』が効かぬ!?」


 ヴェルザードが膝をつく。


 彼女のプライドはズタズタだった。


 かつては勇者さえも退けた魔王が、オムツを履いた幼児たちに完全にナメられているのだ。


「おばちゃん、魔王なんでしょ? 弱くない?」


「テレビのヒーローの方が強いもんねー」


 子供たちの純粋で残酷な言葉が、ヴェルザードの胸に突き刺さる。


「うっ……! 我は……我は……!」


 彼女の目から涙がこぼれそうになった、その時。


 見守っていたディランと、母親であるアルテミスが駆け寄った。


「ヴェルザード! 大丈夫か!? ……おいアルテミス、お前の子供だろ! なんとかしろ!」


「無理よぉ! あの子、私の神権(命令)よりミカエルの筋肉(破壊衝動)を受け継いでるんだもの!」


 アルテミスも半泣きでお手上げ状態だ。


 このままでは保育園が崩壊し、ダンジョン国に解き放たれた幼児軍団によって世界が滅びてしまう。


 ヴェルザードが震える手で床を叩いた。


「……許さん」


 彼女の周りの空気が変わった。


「我を……この魔王ヴェルザードを『おばちゃん』呼ばわりし……あまつさえ『弱い』だと……?」


 ゴゴゴゴゴゴ……!


 保育園全体が激しく揺れ始めた。


 子供たちがピタリと動きを止める。


「え?」


「なに?」


 ヴェルザードが立ち上がった。


 その姿は、いつものジャージ姿の保母さんではなかった。


 全身から放たれる魔力が、ピンク色のオーラとなって彼女を包み込む。


 髪が逆立ち、背中には漆黒の翼と、なぜか『フリフリのエプロン』が幻影として現れた。


【システム警告:個体名ヴェルザードが『限界突破リミットブレイク』しました。 ジョブ『魔王』が『真・魔王カリスマ・ママ』に進化した可能性があります】


「聞きなさい、愚かなる幼児たちよ」


 ヴェルザードが口を開いた。


 その声は、鼓膜ではなく、魂に直接響くような甘く、そして絶対的な響きを持っていた。


「今から私が『お遊戯』を提案する。……これに従わぬ者は、今日のおやつ(プリン)を永久に剥奪し、一生ピーマンだけを食べさせる呪いをかける」


「「「ひぃぃぃぃぃ!?」」」


 子供たちが戦慄した。


 暴力ではない。


 幼児にとって最も恐ろしい『食』への制裁。


「さあ、整列なさい。……『魔王体操第一』、はじめるわよ♡」


 パチン、と彼女が指を鳴らすと、虚空からディスコ調の重低音が鳴り響いた。


「右手を上げて~! 世界を征服~♡」


「「「せ、征服~!!」」」


「左手上げて~! 勇者を血祭りに~♡」


「「「ち、血祭りに~!!」」」


 なんという歌詞だ。


 だが、子供たちはヴェルザードの圧倒的なカリスマ性と、時折見せる『極上のアイドルスマイル』に完全に魅了されていた。


 神の赤ちゃんまでもが、ガラガラをペンライトのように振って熱狂している。


「バブー!(ヴェルザード様、一生ついていきます!)」


 さっきまでの暴動が嘘のように、整然とダンスを踊る幼児軍団。


 その中心で踊るヴェルザードは、後光が差して見えた。


「……すげぇ」


 俺は呆然と呟いた。


「恐怖で支配するのではなく、愛とカリスマで洗脳……いや、統率する。これが……」


「新時代の魔王の姿ね……」


 アルテミスもポテチを落として見入っている。


 一曲踊り終えると、ヴェルザードは汗を拭いながら、荒い息で子供たちを見下ろした。


「分かったなら、お昼寝の時間よ。……いい夢を見なさい、私の可愛い下僕こどもたち」


「「「はーい、ママ!!」」」


 子供たちは一斉に布団に入り、3秒で寝息を立て始めた。


 完全勝利だ。


 ヴェルザードはふらつきながら俺の方へ歩いてくると、俺の胸にコトンと頭を預けた。


「……やったぞ、ディラン。……我は、勝ったのじゃ……」


「ああ。お前は最高だよ、ヴェルザード」


 俺は彼女の頭を撫でた。


 彼女は満足そうに微笑み、そのまま俺の腕の中で気絶(熟睡)した。


 その寝顔は、世界を滅ぼす魔王ではなく、仕事をやり遂げた立派な『お母さん』の顔だった。


 こうして、ダンジョン保育園の伝説に新たな1ページが刻まれた。


 『真・魔王ヴェルザード』。


 彼女の前では、神の子さえも「良い子」にならざるを得ないという、最強の保母さんの誕生である。


(第130話:限界突破の代償。……幼児退行した魔王様が『ディランに甘えん坊』モードに!? 妻たちの嫉妬バトル再び)


 ※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。

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