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第127話 天界からの婚活移民 友よ、安らかに眠れ

「……な、なんだあれは!?」


 その日、ダンジョン国の上空が、かつてないほどの眩い光に包まれた。


 ディランと、秘書天使メル(第6夫人)、そしてレオンたち幹部連中は、王城のバルコニーから空を見上げて絶句した。


 空が割れ、そこから純白の翼を持った集団が、雪崩のように降り注いでいたのだ。


 その数、およそ300。


 全員が天使。しかも、なぜか全員が『純白のドレス(婚活仕様)』に身を包み、手には『履歴書』と『婚姻届』を握りしめている。


「主殿! あれは天界の『聖歌隊』および『事務方』の天使たちだ!」


 育児中のミカエルが、抱っこ紐で赤ちゃんをあやしながら顔面蒼白で叫ぶ。


「ま、まさか天界軍の総攻撃か!? 私とアルテミスを連れ戻しに……」


「いいえ、違います」


 メルが冷静に眼鏡の位置を直した。


「あれは『移民』です」


「はい?」


「私が主殿と結婚し、ミカエル様たちが悠々自適な生活を送っているという噂が天界で広まりました。その結果、『私たちもブラックな職場を辞めて、ダンジョンで玉の輿に乗りたい!』という独身天使たちが暴走。集団退職して押し寄せたのです」


 メルが淡々と解説する横で、先頭の天使が拡声魔法を使って叫んだ。


『我々は要求する! 有給休暇を! 美味しいご飯を! そしてフカフカのベッドとイケメンの旦那を! ここの王様を出しなさい! 私たちの旦那にするから!!』


「「「キャーッ!! 王様ーッ!!」」」


 黄色い歓声と共に、300人の美女天使たちが、俺めがけて急降下してくる。


 彼女たちの目は血走っていた。


 獲物を狙う肉食獣の目だ。


「ひぃっ!?」


 俺は悲鳴を上げた。


 無理だ。絶対に無理だ。


 ただでさえ5人の妻+メル+女神でキャパオーバーなのに、これ以上増えたら俺の身が持たない。物理的に干からびて死ぬ。


 チラリと横を見ると、セレスティアたちが「あら? 迎撃サツガイしてもよろしいですわよ?」と物騒な魔力を溜め始めている。


 このままではダンジョンが血の海になる。


 どうする? どうすればこの場を収められる?


 俺の脳内コンピュータ(遊び人スキル)が、0.1秒で最適解を弾き出した。


 俺は素早く一歩前に出ると、ビシッと指を差した。


 俺の隣に立っていた、親友たちを。


「待て天使たちよ! 俺は既婚者だ! だが安心してくれ! この国には、俺よりも勇ましく、強く、将来性のある『独身のような』男たちが余っている!!」


「「は?」」


 レオン、イグニス、ザインが間の抜けた声を上げた。


 俺は彼らの肩を抱き、天使たちに向けてセールストークを展開した。


「紹介しよう! こちら、剣聖レオン! 筋肉隆々、スーパーカー所有! 夜の剣技も絶品だ!」


「おいディラン!?」


「続いて、騎士イグニス! 情熱的な愛で君を溶かすぞ! 冬でも暖房いらずのエコ男!」


「ちょ、待て!」


「そしてザイン! クールで無口だが、母性をくすぐる赤ちゃんプレイの達人だ!」


「バブッ!?」


 俺の言葉に、天使たちのターゲットが切り替わった。


『……あら、いい男』


『王様は無理でも、幹部なら好条件よ!』


『あの筋肉……よだれが出るわ!』


 ズザザザザッ!


 300人の天使たちが空中で軌道修正し、レオンたちに殺到した。


「うわあああ! 来るなあああ!」


「ディランてめぇ! 俺たちを売ったなあああ!!」


 レオンたちの絶叫が響く。


 すまない、友よ。


 俺の平穏のためだ。君たちの犠牲は無駄にはしない。


 天使たちにもみくちゃにされ、キスマークだらけになっていく親友たちを見ながら、俺は安堵の息を吐いた。


 ――だが。


 俺は一つ、重大なことを忘れていた。


 彼らもまた、『既婚者』であることを。


「……あら」


「……へえ」


「……ふーん」


 地獄の底から響くような、冷え切った声がした。


 天使の群れの外側に、3人の女性が立っていた。


 レオンの妻シーラ、イグニスの妻エレナ、ザインの妻ルナだ。


 彼女たちの手には、それぞれ『電卓(角が鋭利)』、『氷の槍』、『毒入りの哺乳瓶』が握られている。


「レオン? ……随分とモテモテじゃない。私の管理じゃ不満だったのかしら?」


「イグニス……。浮気したら爆発するって言ったわよね?」


「ザインちゃん……。悪い子は、お仕置きですよ?」


 ゴゴゴゴゴ……!


 天使たちの聖なる光を塗りつぶすほどの、どす黒い殺気が膨れ上がった。


 それに気づいた天使たちが、「ひっ!?」と動きを止める。


「ち、違うんだシーラ! これは誤解だ! 俺はディランにハメられただけで……!」


 レオンが必死に弁解するが、鬼嫁モードのシーラは聞く耳を持たない。


「問答無用。……天使の方々、申し訳ありませんが、この粗大ゴミたちは『回収』させていただきますわ」


 シーラが指を鳴らすと、地面から無数の鎖が出現し、レオンたちを雁字搦めにした。


「ぎゃああああ!!」


「助けてくれぇぇぇ!!」


 男たちはズルズルと妻たちに引きずられていく。その行き先は、間違いなく『夫の墓場(地下説教部屋)』だ。


 残された天使たちが呆然とする中、俺はキリッとした顔で彼女たちに向き直った。


「見たか! この国の男と付き合うということは、あの『最強の妻たち』と戦うということだ! それでも結婚したいか!?」


 俺の威嚇ハッタリに、天使たちは青ざめた。


『む、無理……』 『あんな修羅場、天界より怖い……』 『帰ろう……』


 天使たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ帰っていった。


 こうして、ダンジョン国の平和は守られた。


 俺の尊い犠牲(主にレオンたち)によって。


「……ディラン様」


 背後から、セレスティアが肩に手を置いた。


「素晴らしい危機管理能力ですわ。……ですが」


 彼女はニッコリと笑った。


「友人を売るような悪い王様には、少し『教育』が必要ですわね? メルさん、スケジュールを」


「はい。今夜は『妻全員との反省会』および『家族サービス強化合宿』を組みました」


 メルが手際よく答える。


「……え?」


 俺の顔が引きつった。


 遠くから聞こえるレオンたちの断末魔が、俺の未来を暗示しているようだった。


(第128話:ベビーブームは突然に……じゃなくて『育児パニック』? 神様の赤ちゃんが強すぎて家が半壊した件)


 ※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。

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