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第12話 野菜が食べたかったので、フロアボス(ベヒーモス)を重機として再就職させてみた

 拠点での生活は快適そのものだった。


 風呂はある。寝床もふかふか。魔物の襲撃も自動迎撃システムが処理してくれる。


 だが、一つだけ問題があった。


「……肉ばっかりで飽きてきたな」


 朝食のテーブル(今日もドラゴンステーキだ)を見ながら、俺はぽつりと漏らした。


 深層で手に入る食材は、高ランクの肉ばかり。


 栄養価は高いが、やはりシャキシャキした野菜や、甘い果物が恋しくなる。


「贅沢な悩みね……。王都じゃ、ドラゴンの肉なんて一生に一度拝めるかどうかよ?」


 ソフィアが呆れたように言うが、俺は首を振った。


「食育は大事だ。特にルナみたいな育ち盛りにはな。……よし、畑を作るか」


「は? 畑?」


「ああ。この庭ならスペースは十分だ」


 俺は庭園の一角、まだ手付かずの荒れ地へと向かった。


 ◇


 通常、農業というのは土作りから始め、種を植え、収穫まで数ヶ月かかる気の長い作業だ。


 だが、俺(Free)にそんな常識は通用しない。


「システム介入。エリア指定、農耕地へ変更」


 ボボボボボッ!!


 俺が地面に手を触れると、岩盤が瞬時に粉砕され、ふかふかの黒土へと変質した。


 そこに、適当に採取していた「野草の種」や、果実の種をばら撒く。


「合成スキル発動。【植物成長】+【時間加速】+【品種改良(極)】」


 カッ!!


 緑色の閃光が走る。  直後。


 メリメリメリメリッ!!


 凄まじい音と共に、植物たちが爆発的に成長した。


 わずか十秒。

 

 そこには、黄金色に輝く小麦、宝石のようなトマト、メロンほどもある巨大なイチゴが実っていた。


「……なっ」


 農家の常識どころか、自然の摂理すら破壊する光景に、レオンとソフィアが絶句している。


「な、なんだこれ……! トマトから魔力が溢れてるぞ!?」


「鑑定しても『詳細不明』!? Sランク食材を超えてるわよ、これ!」


「ん、上出来だな」


 俺が真っ赤なトマトをもいで齧ると、口の中で濃厚な甘味が弾けた。糖度は軽く20を超えているだろう。


「あまーい! これフルーツみたい!」


 ルナが尻尾を振ってイチゴに飛びつく。


 こうして食糧問題は解決したかに見えた。


 だが、その時だった。


 ズ……ズズズ……ッ。


 巨大な地響きが、要塞全体を揺らした。


「敵襲!」


 ザインが即座にダガーを構える。


 庭の向こう、ダンジョンの闇から現れたのは――山のように巨大な四足獣だった。


 鋼鉄の毛皮、ねじれた巨大な角。  


『荒野の王』と呼ばれる災害級モンスター、ベヒーモスだ。


 この70階層のフロアボスである。


「グルァアアアアアッ!!!」


 ベヒーモスが咆哮する。


 どうやら、勝手に地形を変えられ、魔力を吸い上げる畑を作られたことに腹を立てて、抗議(破壊)しに来たらしい。


「くっ、ベヒーモスか! 厄介なのが出てきたな!」


 レオンが聖剣を抜こうとする。  アリシアも盾を構えようと前に出た。


 だが、俺はそれを手で制した。


「待て。殺すな」


「は? 何を言って……」


「ちょうどいいところに来た。畑を広げようと思ってたんだが、土を耕すのが面倒でな」


 俺はベヒーモスの前に歩み出た。


 ベヒーモスが巨大な前足を振り上げる。直撃すれば城壁すら粉砕する一撃だ。


「【テイム(強制服従)】」


 俺は指先ひとつで、虚空をタップした。


 ピシッ。


 ベヒーモスの動きが空中で静止した。  


 その瞳から暴虐の色が消え、代わりに忠犬のような従順な光が宿る。


「……お座り」


 ズシンッ。


 巨大な怪物が、大人しくその場に座り込んだ。


 俺はアイテムボックスから農耕具(巨大な鋤)を取り出し、ベヒーモスの背中に装着する。


「よし。あそこの荒れ地を耕してこい。深く、丁寧にな」


「グルゥ……(ワン)」


 ベヒーモスは嬉しそうに尻尾を振ると、猛烈な勢いで地面を耕し始めた。


 ガガガガガガッ!!


 そのパワーは凄まじい。トラクターの百倍の効率で、荒れ地が次々と極上の農地へと変わっていく。


「……」


 レオンが剣を落とした。


 ソフィアが眼鏡をずり落とした。


「……ベヒーモスって、あんな使い方があったのか?」


「ないわよ。あるわけないでしょ。……災害級魔物が、ただの『耕運機』扱いなんて……」


 二人の常識(SAN値)は、今日もゴリゴリと削られていく。


「さあ、今夜は野菜たっぷりカレーだぞ」


「「「わーい!!」」」


 平和な深層。


 俺たちの国に、新たな労働力フロアボスが加わった瞬間だった。


(第12話 終わり)

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