第119話 天使長、サウナに沈む 増殖する『伝説のペット』たち
「アルテミス様! いい加減にお戻りください!」
ある日の午後。 王城の庭園に、眩い光と共に『天使長ミカエル』が降臨した。 背中には六枚の翼、手には炎の剣。 そして、彼が跨っているのは、純白の翼を持つ伝説の聖馬『ペガサス』だった。
「嫌です! 絶対に帰りません!」
対する女神アルテミスは、ジャージ姿でポテトチップスを抱え、ポチ(フェンリル)の背中に隠れていた。
「天界にはウォシュレットもコーラもありません! あんな退屈な世界、もうごめんです!」
「なっ……! なんと嘆かわしい! 堕落も極まれりです!」
ミカエルは激怒した。 天界の威信にかけて、このふしだらな女神を連れ戻さなければならない。
「ええい、問答無用! 力ずくでも連れ帰ります!」
ミカエルが剣を抜こうとした時、俺が割って入った。
「まあ待て、天使長さん。……そうカリカリするなよ。話せばわかる」
「黙れ人間! 貴様が女神をたぶらかした元凶か!」
「たぶらかしてない。勝手に居座ってるだけだ。……それより、遠路はるばる来て疲れただろ? まずは『一風呂』どうだ?」
俺はニカっと笑った。 日本人の心、おもてなしの精神だ。 (そして、彼を骨抜きにする最強のトラップでもある)
「風呂だと? ……ふん、下界の湯など興味はないが……」
ミカエルは鼻で笑ったが、少し汗をかいていたのも事実だ。 彼はペガサスから降り、従者に手綱を渡そうとした。
「あ、お馬さんだー!」 「綺麗! 羽が生えてる!」
そこへ、ピヨちゃんやレオンJr.たちが駆け寄ってきた。 彼らはペガサスを見るなり、目を輝かせた。
「おい、人間の子よ。気安く触るな。……このペガサスは天界の高貴なる……」
ミカエルが注意しようとした瞬間だった。
「よしよし、いい子ね~」 「ニンジン食べるか?」
ピヨちゃんがペガサスの鼻面を撫で、レオンJr.がダンジョン産の『極上ニンジン(魔力入り)』を差し出した。
ヒヒ~ン♪(うまーい!)
ペガサスが陥落した。 高貴な聖獣が、ニンジンのあまりの美味さに目を剥き、子供たちにスリスリと甘え始めたのだ。
「なっ……!? 私の愛馬が!?」
「お名前つけなきゃね!」 ピヨちゃんが言う。
「白くて綺麗だから……『シロ』でどう?」
「ワン!」(賛成だワン!) ポチ(フェンリル)も尻尾を振って同意する。
ヒヒン!(シロでいいよ!)
「ば、馬鹿な……! 天馬クリスタル・ウィンド号が……『シロ』だと……!?」
ミカエルが絶句している隙に、俺は彼の肩を抱いた。
「よし、シロの世話は子供たちに任せよう。……さあミカエルさん、こっちだ。極上の『サウナ』が待ってるぞ」
俺は半ば強引に、彼を城の地下にある『大浴場(スーパー銭湯)』へと連れ込んだ。
…… …………
1時間後。
「……あぁ……」
ミカエルは、露天風呂の横にある『ととのい椅子』で、真っ白な灰になっていた。
「な、なんという……体験だ……」
彼の体は、サウナ(100度)と水風呂(15度・聖水入り)の往復により、極限のトランス状態『ととのう』に達していた。
「体が……羽のように軽い……。天界の飛行よりも……気持ちいい……」
彼の中で、使命感や怒りが汗と共に流れ落ちていく。 目の前では、風呂上がりの女神アルテミスが、腰に手を当てて『コーヒー牛乳』を一気飲みしている。
「ぷはーっ! ミカエル、どうです? この快楽を知ってしまっては、もう戻れないでしょう?」
「……うむ。……否定できん」
ミカエルは陥落した。 彼はコーヒー牛乳を受け取り、震える手でそれを飲み干した。
「……美味い」
その一言が、彼の敗北宣言だった。
…… …………
翌日。 王城の庭には、新たな『伝説のペット』と『居候』が増えていた。
「シロ! 飛べー!」 「ヒヒーン!」
ピヨちゃんを背中に乗せ、空を駆け回るペガサス(シロ)。 それを地上から羨ましそうに見上げ、ワンワン吠えるフェンリル(ポチ)。
そして、バルコニーでは。
「あー、極楽極楽。……やはり風呂上がりのポテチは最高ですな」
ジャージ姿の女神の隣で、天使長ミカエルも甚平を着て、団扇を仰ぎながらスイカを食べていた。
「うむ。……天界への報告は『調査中』としておこう。……この『温泉』の効能を、あと100年は調べる必要がある」
「ですね。……ポチ、シロ。ご飯ですよー」
「ワン!」 「ヒヒン!」
伝説の魔獣と聖獣が、仲良くドッグフード(高級肉)を食べている。
「……動物園かここは」
俺は執務室からその光景を眺め、深く溜息をついた。 ダンジョン国は、もはや人間よりも「人外」の住人の方が幅を利かせ始めている。 神様も天使も魔獣も、ここではただの「ペットと飼い主」だ。
(第120話:ペットたちの喧嘩勃発? ……ポチ(魔)とシロ(聖)が本気でじゃれあった結果、国が半壊する『神話大戦』に?)
※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。




