第116話 君の名は『ポチ』 伝説の魔獣、プライド崩壊の瞬間
「フッ……。我ガ名ハ『シルヴァ』。 高貴ナル銀狼ナリ」
王城の庭園にて。 フェンリル改めシルヴァは、ピヨちゃんやレオンJr.たちを背中に乗せ、優雅に闊歩していた。 その姿は威厳に満ちており、通りがかる兵士たちも敬礼をするほどだ。
「カッコイイわ、シルヴァ!」 「速いぞ、シルヴァ!」
子供たちに褒められ、彼は満更でもない様子で尻尾を振る。 彼の中で、あの屈辱的な「ポチ」という名前は、すでに過去のジョークとして処理されていた。
「ディラン様。……彼、すっかり馴染みましたわね」
バルコニーでお茶を飲みながら、セレスティアが微笑む。 俺も頷いた。
「ああ。最強の番犬だな。……さて、せっかくだから『首輪』でもプレゼントしてやるか」
俺はソフィアに頼んで作ってもらった『魔導ステータス・タグ付き首輪』を取り出した。 これをつければ、迷子になってもGPSで探せるし、健康状態もスマホ(魔導端末)で管理できる。
「おい、シルヴァ。これを着けてやるよ」
『フム。……悪クナイ装飾ダ』
シルヴァは大人しく首を差し出した。 カチャリ。 首輪が装着されると、タグが青く光り、空中に彼のステータスウィンドウが投影された。
ピロン♪(システム起動音)
そこに表示された文字列を見て、その場の全員が凍りついた。
【個体名:ポチ(自称:シルヴァ)】 【種族:フェンリル】 【飼い主:ディラン】 【状態:お手つき】
沈黙。 風の音だけがヒューと吹き抜ける。
『……ハ?』
シルヴァが自分のステータスを凝視した。 何度見ても、一番上の大きな文字は『ポチ』であり、『シルヴァ』はカッコ書きの「自称」扱いだった。
「あー……。そういえば俺、最初に『遊び人』のスキルで契約した時、ポチって呼んじゃったからな……」
俺は気まずそうに頭をかいた。 俺のジョブ『遊び人』の隠しスキル【言霊】は絶対だ。 最初にノリで口にした名前が、魂の深層レベルで刻印されてしまっていたのだ。
『ウ、ウソダ……。我ハ……シルヴァ……』
シルヴァが震えながら、ソフィアを見た。 ソフィアは無情にも首を横に振った。
「……システムエラーではない。魂の登録名は変更不可能じゃ。……お主の本名は、宇宙の理において『ポチ』で確定しておる」
ガーン!!(衝撃音)
伝説の魔獣の膝が折れた。
『我ガ……ポチ……? 神ヲ食ラウ牙ヲ持ツ我ガ……アノ間抜ケナ……ポチ……?』
彼のプライドに亀裂が入った。 数千年の威厳が、たった二文字の響きによって粉砕されていく。
「ま、まあいいじゃないか! 呼び名はシルヴァで通すからさ!」
俺がフォローしようとしたが、時すでに遅し。 シルヴァの瞳からハイライトが消えた。
『……モウ、イイ』
彼は悟ってしまったのだ。 運命には逆らえないと。 そして、ポチという名の響きが持つ「愛玩動物としての魔力」に、魂が屈服していくのを。
クルッ。 彼は俺の方を向き、お腹をゴロンと見せた。
『……ワン(お手)』
「えっ」
『……クゥーン(撫でて)』
「シ、シルヴァ!?」
「いいえ、ディラン様。……彼はもう、自分の運命を受け入れたのですわ」
セレスティアが同情と憐憫の入り混じった目で見つめる。 彼は自ら「高貴な銀狼」の仮面を捨て、ただの「愛されワンコ」として生きる道を選んだのだ。
「よ、よしよし! いい子だぞ、ポチ!」
俺が撫でると、彼はちぎれんばかりに尻尾を振った。 その顔は、もう魔獣のそれではなく、完全に『実家の柴犬』のようなアホ可愛い表情になっていた。
「ワンワン! ワフーン!」(ボール投げて!)
こうして、災厄の魔獣フェンリルは、名実ともに『ポチ』となった。 世界最強の番犬にして、世界一プライドの低い伝説の生き物。 子供たちに「ポチー!」と呼ばれて喜んで駆け寄るその姿に、かつての恐怖を知る神々は涙したという。
(第117話:ポチの散歩中に『本当の飼い主(女神)』が降臨!? 「うちの子を返して!」と迫る神様 VS 「ポチは俺の家族だ!」と吠えるディラン)
※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。




