第115話 覚醒する『遊び人』 伝説の魔獣、その名は『ポチ』!?
「……疲れた」
執務室の椅子に沈み込みながら、俺は天井を仰いだ。 昼は公務と育児、夜は妻たちの『聖域(寝室)』での波状攻撃。 いくらドラゴン肉で強化された体とはいえ、精神的な摩耗が激しい。
「そういえば……俺の初期ジョブって『遊び人』だったよな?」
ふとステータス画面を開く。 【名前:ディラン 職業:王様(元・遊び人)】
冒険者時代、荷物持ちとして虐げられていたが、俺の本質はこの『遊び人』だ。 運の数値だけが異常に高く、戦闘スキルはないが、何かとラッキーなことが起こる……はずだった。
「最近、遊んでないな。……もしかして、もっと本気で『遊ぶ』ことで、このジョブの真価が発揮されるんじゃ?」
現実逃避気味な思考のまま、俺はふらりと城を抜け出した。 行き先は決めない。 足の向くまま、気の向くまま。 ダンジョンの未開拓エリアを、口笛を吹きながら散歩する。
「おーい、何か面白いことないかー?」
俺が適当に壁を蹴ると、ガゴッという音がして、隠し通路が開いた。
「お、ラッキー」
これぞ遊び人のスキル『強運』。 俺は何の警戒もなく、その奥へと進んでいった。
…… …………
たどり着いたのは、祭壇のような場所だった。 そこには、幾重もの封印魔法が施された檻があり、中には一匹の『子犬』が震えていた。
銀色の毛並み。つぶらな瞳。 額には三日月の紋様。
「ワン!」(クゥーン……)
「おお、可愛いな。捨て犬か?」
俺は檻に手を触れた。 バチバチッ! 本来なら即死級の結界が、俺の指輪(妻たちの愛の結晶)によって無効化され、あっさりと扉が開いた。
「よしよし、寒かったな。おいで」
俺が抱き上げると、子犬は俺の顔をペロペロと舐めた。
「ワン! ワフッ!」
「気に入った。今日からウチで飼ってやるよ」
俺は子犬を懐に入れ、意気揚々と城へ帰還した。 まさかそれが、神話の時代に世界を噛み砕こうとして封印された、災厄の魔狼『フェンリル』だとは露知らず。
…… …………
城の中庭にて。
「パパ! それなぁに?」 「わんわん! わんわんだ!」
ピヨちゃんやレオンJr.たちが集まってきた。 妻たちもバルコニーから降りてくる。
「散歩してたら拾ったんだ。……どうだ、可愛いだろ?」
俺が子犬を地面に下ろすと、その瞬間、セレスティアとヴェルザードの顔色が変わった。
「ディ、ディラン様!? その魔力……まさか!?」 「バカ者! それはただの犬ではない! 『終焉の冬』を呼ぶフェンリルじゃぞ!」
「え?」
見ると、子犬の周りの空気が凍りつき、地面から霜が降り始めていた。 子犬はスッと立ち上がり、王者の風格で周囲を威圧した。
『……我ガ封印ヲ解キシ者ヨ。 我ハ誇リ高キ銀狼。 コノ世界ニ再ビ絶望ヲ……』
子犬の口から、渋いテレパシーが響く。 やはりタダモノではなかったらしい。
「名前! パパ、名前つけて!」
ピヨちゃんが目を輝かせて言った。
「お、そうだな。……家族になるんだから、名前が必要だな」
俺は腕組みをして、子犬を見下ろした。 白い。丸い。そして犬っぽい。
俺の脳内コンピュータが、最適解をはじき出した。
「よし。……お前の名前は『ポチ』だ」
ピキーン。
その場の空気が、絶対零度まで下がった。
『……ハ?』
フェンリルが固まった。 セレスティアが眼鏡を落とした。 ヴェルザードが頭を抱えた。
「ポ、ポチ……? こ、この伝説の魔獣に対して……あまりにも……あまりにもなネーミングですわ……!」
「センスがないとは知っておったが、ここまでとは……」
フェンリルの瞳から、みるみる涙が溢れてきた。
『ポ……ポチ……? 我、古ノ王ゾ? 神ヲ食らウ狼ゾ? ソレガ……ポチ……?』
プライドを粉々にされた魔獣が、絶望のあまり自爆しそうな勢いで魔力を膨張させた。 マズい。このままでは国が吹き飛ぶ。
「ち、違いますわ!」
セレスティアが慌てて叫んだ。
「ポチというのは……古代語で『ポ・チ(至高の・存在)』という意味ですの! ディラン様はあえて古語を使われたのです!」
苦しいフォローだ。
「パパのセンスは置いといて……。もっとカッコいい名前がいいわ!」
ピヨちゃんがフェンリルの前に立った。
「貴方は銀色で、とっても綺麗。……だから『シルヴィア』はどうかしら?」
「ワン!」(男だ!)
フェンリルが抗議する。
「じゃあ……『フェン』くん!」 ノエルが提案する。
『……悪クナイ』 フェンリルが少し落ち着いた。
「俺は『銀牙』がいいと思うぜ」 レオンJr.が言う。
『オオ……強ソウダ』 フェンリルが尻尾を振った。
最終的に、子供たちと妻たちの厳正なる審査の結果、彼の名前は『シルヴァ』に決定した。 高貴で、強そうで、呼びやすい。
『うむ。シルヴァ……良き名だ。 ポチなどという屈辱的な名で呼ばれずに済んで良かった』
フェンリル改めシルヴァは、安堵のあまり俺の足元でへたり込んだ。
「むぅ……。ポチも可愛いと思ったんだがなぁ」
俺が不満げに呟くと、シルヴァは俺の手をガブリと甘噛みした。 これが、主従契約の証だった。
【システム音声:ジョブ『遊び人』のスキル『伝説との遭遇』が発動しました。 テイム不可能な魔獣を、気の抜けた行動で手なずけました。 ジョブレベルが上がりました】
どうやら、俺の『遊び人』は、ふざければふざけるほど世界を揺るがす結果を出す、とんでもないジョブに進化しつつあるようだ。
こうして、我が家に最強の番犬が加わった。 彼は子供たちの良き遊び相手となり、泥棒が入れば一瞬で氷像に変える、頼もしい家族となるのだった。
(第116話:シルヴァの散歩は命懸け。……電柱におしっこをすると、街の一角が氷河期になる? トイレトレーニング編)
※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。




