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第113話 マエストロの受難と奇跡 破壊音を『シンフォニー』に変えろ

「さあ、可愛い天使たち。……今日は音楽の素晴らしさを学びましょう」


 王城の多目的ホール。 そこに立っていたのは、燕尾服をビシッと着こなし、指揮棒を持ったロマンスグレーの紳士――ギルバートだった。


 かつて王国の筆頭吟遊詩人を務め、現在はダンジョン国の音楽監督として、あの音痴なレオンたちをアイドル『ダンジョン・ナイツ』に育て上げた伝説のプロデューサーだ。


「じっじー!」(ギルバートおじいちゃん!)


 ピヨちゃんやレオンJr.たちが、懐いて駆け寄ってくる。 ギルバートは目尻を下げた。


「ふふ、元気ですね。……陛下、ご安心を。猛獣使い(プロデュース)には慣れておりますから」


 見学席のディランに、彼は余裕のウィンクを送った。 確かに、あのレオンの破壊的な歌声を矯正した彼なら、幼児教育も余裕かもしれない。


「では、まずは手拍子です。リズムに合わせて……タン、タン、タン、ハイ!」


 ギルバートが優雅に指揮棒を振る。 子供たちはニコニコしながら、小さな手を振り上げた。


「はーい!」


 パンッッッ!!!


 ドゴォォォォン!!


「……おや?」


 ギルバートの白髪が、爆風で逆立った。 レオンJr.の剛腕拍手と、イグニスJr.の爆裂魔力が合わさり、ホールの窓ガラスが全て粉砕されたのだ。


「……なるほど。ピアニッシモ(弱く)ではなく、フォルテッシモ(強く)でしたか」


 ギルバートは冷や汗を流しながらも、プロの意地で笑顔を崩さない。


「では次は足踏みです。……もっと優しく、大地の鼓動を感じて……」


 ズシーン! ズシーン!


 バリバリバリバリ!!


「床が!? 床が抜けていく!」


 子供たちが足を踏み鳴らすたびに、床材が弾け飛び、城の基礎が悲鳴を上げる。 もはやリトミックではない。破壊活動だ。


「キャッキャッ!」(楽しいー!)


 無邪気な破壊のエネルギーが、ホールを瓦礫の山へと変えていく。 普通の教師なら逃げ出す場面だ。 だが、ギルバートは違った。


 彼の脳裏に、かつてレオンたちを指導した地獄の日々が蘇る。 (あの時の絶望に比べれば……この子たちのリズム感は悪くない! ただ、出力が異常なだけだ!)


 マエストロの魂に火がついた。


「……素晴らしい。なんてパワフルな『打楽器』でしょう」


 ギルバートは指揮棒を激しく振りかざした。


「いいでしょう! 止めはしません! その破壊音を、芸術に昇華させてみせましょう!」


「先生!?」


 俺は驚いた。 彼は破壊を止めるのではなく、指揮コントロールし始めたのだ。


「レオンJr.君! その壁殴りはバスドラムです! もっと低く重く!」 「イグニスJr.君! 爆発はシンバル! 裏拍で入れなさい!」 「ザインJr.君! 影の音でベースラインを刻んで!」 「ピヨちゃん様! 貴女の悲鳴シャウトでメロディを!」


「キャー!!」(ラララ~!)


 カオスだった破壊音が、ギルバートの指揮によって奇跡的に噛み合い始めた。 床が割れる音がリズムになり、爆発音がアクセントになり、子供たちの笑い声がハーモニーになる。


 それは、前衛的すぎる『破壊交響曲デストロイ・シンフォニー』だった。


「ブラボー! ブラボー!! もっと激しく! 城が壊れるその瞬間こそがクライマックスです!」


 ギルバートは狂気的な笑みを浮かべ、髪を振り乱して指揮を続けた。 彼にとっても、これほどの「音圧」を扱える演者は初めてだったのだ。


 演奏終了後。 ホールは全壊し、青空が見えていた。 子供たちは満足げに寝転がり、ギルバートは瓦礫の山頂で、燃え尽きたように立ち尽くしていた。


「……陛下」


「あ、ああ……」


「……最高の『素材』です。……10年後、彼らは世界を揺るがすバンドになりますよ」


 ギルバートは震える手で眼鏡を直した。 その顔は、老いを感じさせないほど生き生きとしていた。


 こうして、初老のマエストロは、新たな生き甲斐(と修繕費の請求書)を見つけたのだった。


(第114話:子供たちが『ペット』を欲しがる。……拾ってきたのは捨て犬? いいえ、それは封印されし『災厄の魔獣フェンリル』です)


 ※注:予告は執筆中にさらなるアイデアのために変更することがあります。むしろ予告通りにならないことが多々ありますのでご了承ください。

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