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第106話 父の背中は強かった 借金完済と『懲りない男たち』

 

「……ふふ。計画通りですわ」


 男たちが死地へ旅立った後の執務室。 セレスティアは、実はモニターの裏に隠していた『真の帳簿(裏金)』を眺めて微笑んでいた。


「国家予算が3年分飛ぶ? ……ええ、あくまで『表向きの予算』ならそうですわね」


 実は、マヨネーズやブランド品の利益の9割は、彼女が『将来のための内部留保ヘソクリ』としてガッチリ貯め込んでいた。 その額、国家予算の100年分。 本来なら、オムツ代ごときで国は傾かない。


「ですが、男という生き物は、危機感がないと働きませんから」


 彼女は冷徹な愛妻家だった。 夫たちが「子供のために!」と必死になる姿を見るのが、何よりの栄養なのだ。


 …… …………


 一方、その頃。 前人未踏の最深部『第100階層・神々の試練場』。


 そこは、伝説級の魔獣が跋扈し、過去に挑んだSランク冒険者が誰一人として帰還しなかった絶対死地。


 だが。


「うおおおお! どけぇぇぇ!!」


 ドゴォォォォン!!


 レオンの拳が、神話級のドラゴン『エンシェント・バハムート』の顎を粉砕した。


「俺の……俺の子供が待ってるんだよぉぉぉ!」


「ミルク代ぃぃぃ!!」


 イグニスの炎が、炎熱無効のはずのフェニックスを焼き尽くす。


「ベビーカーは……最新式の『エアサス付き』を買うんだ……!」


 ザインが音もなく死神の首を狩る。


 彼らは、通常時の能力を遥かに超える『当社比10005%』の実力を発揮していた。 その原動力は、愛。 そして、「稼がないと妻に殺される」という生存本能。


「す、すげぇ……」


 後ろで指揮を執っていたディランは、ただ呆然と見ていた。 こいつら、こんなに強かったのか。 これなら魔王討伐なんて3分で終わるんじゃないか?


「よし、回収だ! 骨の髄まで持ち帰るぞ!」


 彼らは倒した魔獣の素材、ダンジョンの壁に埋まる希少鉱石、落ちているゴミ(実はアーティファクト)に至るまで、ハイエナのように回収した。 無限収納バッグがパンパンに膨れ上がる。


 …… …………


 数日後。王城にて。


「……査定が出ましたわ」


 セレスティアが、持ち帰られた山のような戦利品を鑑定し、電卓を弾いた。 その場の空気は張り詰めていた。 レオンたちは、泥だらけの顔で、祈るように彼女の手元を見つめている。


「今回の遠征による収益は……金貨100億枚相当です」


「「「い、一億倍!?」」」


「第100階層の素材は、地上では値段がつけられないほどの価値がありますから。……これにより」


 セレスティアは、分厚いファイルを机に置いた。 表紙には『レオン様・借金返済計画書(100年ローン)』と書かれている。 彼女は、その表紙に真っ赤なハンコを押した。


 ポンッ!


【完済】


「おめでとうございます。……貴方たちの借金は、本日をもって『全額返済』されました」


 時が止まった。 レオンたちは、震える手でそのファイルを受け取った。


「お……終わった……?」


「終わりました。もう、給料の天引きはありません。来月からは、稼いだお金は全て貴方たちのものです」


「う……うわあああああん!!」


 いい歳したおっさんたちが、抱き合って号泣した。


「長かったぁぁぁ!」 「俺たち、自由なんだぁぁぁ!」 「これで胸を張ってパパになれるんだぁぁぁ!」


 俺も思わずもらい泣きした。 彼らの苦労を一番近くで見てきたからこそ、この瞬間の尊さが分かる。 よかったな、お前ら。本当によかった。


 …… …………


 その夜。 祝勝会が開かれた酒場の片隅で。


「へへっ、ついに俺も『小遣い制』から卒業だぜ」


 レオンが、ジョッキを片手にカタログ雑誌を広げていた。


「おいレオン、何見てるんだ? ベビー用品か?」


 俺が覗き込むと、そこには『最新型・魔導バイク(限定モデル)』の写真があった。


「いやー、借金もなくなったしよ? これからは稼ぎも増えるだろ? ……自分へのご褒美に、ちょっと『趣味』を再開してもいいかなって」


「俺はこれだな。……『ヴィンテージ・ギター(魔界樹製)』。5000万マナするけど、今の俺なら一括でいける」


 イグニスも変な雑誌を見ている。


「俺は……『観賞用スライム(超レア)』の飼育セットを……」


 ザインまで。


 俺は頭を抱えた。 こいつら、借金がなくなった瞬間に、その空いた枠(信用)を使って新しいローンを組もうとしている。


「お前らな……少しは貯金するとか……」


「大丈夫だって! 俺たちには第100階層があるんだ! 金がなくなったらまた狩ればいい!」


「そうそう! 俺たちは無敵だ!」


 彼らは高笑いした。 懲りていない。全く懲りていない。 だが、その表情は以前のような悲壮感はなく、どこまでも明るかった。


 俺はため息をつきつつも、彼らのグラスに酒を注いだ。 まあいいか。 どうせ妻たち(セレスティアたち)にバレて、すぐに新しい首輪をつけられる未来が見えている。


 それまでは、束の間の『自由』を味あわせてやろう。


「乾杯! 懲りない馬鹿野郎たちに!」


「「「乾杯!!」」」


 こうして、男たちの借金生活は(一時的に)幕を閉じた。 しかし、彼らの人生という名の冒険(と散財)は、まだまだ続くのである。

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