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第104話 すれ違う夜の営み 『優しさのバリア』なんて張ってない!

「……おかしいですわ」


 ある日の午後。 妻たちだけが集まる『第一夫人会議ティータイム』にて、セレスティアが重々しく口を開いた。


「私たちは毎晩のように、ディラン様とあんなに『ラブラブ』を深めています。……なのに、なぜ『コウノトリ』が来ないのです?」


 テーブルには、高級菓子と紅茶。 だが空気は重い。


「うむ。余とディランの魂の結びつきなら、すでに大家族ができていてもおかしくないのじゃが……」(ヴェルザード)


「私も毎日、聖女の祈りを捧げてますけど……お腹に『生命の光』が宿りません」(ノエル)


 そこで、ソフィアが眼鏡を光らせて仮説を述べた。


「……確率はゼロではない。しかし、これだけ愛し合ってゼロというのは統計的に異常じゃ。……考えられる可能性は一つ」


 全員がソフィアに注目する。


「ディランが……あえて『魂の供給』を制限している(リミッターをかけている)』のじゃ」


「「「ええっ!?」」」


「つまり、ディラン様は高度な『避妊結界セーフティ・ガード』を無意識に、あるいは意図的に発動している可能性がある」


 場がざわめいた。 セレスティアがハッとして口元を押さえた。


「なんてこと……。あの方は、まだ国が安定していないから、私たちが育児で疲弊しないように……あえてブレーキをかけてくださっていたのですか!?」


「なんという優しさ……! 自分の情熱よりも、私たちの体を気遣って……!」(アリシア)


「でも、もう我慢できません! ピヨちゃんも妹か弟を欲しがってます!」(ノエル)


 妻たちの目つきが変わった。 優しさは嬉しい。だが、今はその過保護な優しさが邪魔だ。 彼女たちは決意した。


「今夜……ディラン様に『リミッター』を解除していただきましょう」


 …… …………


 その夜。 ディランは、寝室でいつものようにリラックスしていた。 今日は全員集合の日だ。


「ディラン様……」


 セレスティアたちが、どこか決意を秘めた瞳でベッドに近づいてくる。


「おお、今日もみんな綺麗だな。……よし、いつものように一緒に寝るか?」


 俺が呑気に言うと、ヴェルザードが俺の手を握りしめた。


「ディランよ。……もう、遠慮はいらぬぞ」


「え?」


「そなたの優しさは十分に伝わっておる。……だが、余たちはもう準備万端じゃ。……その『見えない壁』を取り払ってくれ」


「壁? なんの話だ?」


 俺はキョトンとした。 壁なんて作った覚えはない。物理的な壁なら、ピヨちゃんが昨日壊したばかりだ。


「とぼけないでください。……毎晩あれだけ一緒に寝ていて、コウノトリが来ないなんてありえませんわ。……貴方が『魔力制御』をしている以外に理由がないでしょう?」


 セレスティアが詰め寄る。


 俺は思考を巡らせた。 コウノトリ? 来ない? 当たり前じゃないか。


「いや、だって……俺は人間で、みんなはドラゴンやエルフだろ? 『生物学的な壁』があるじゃないか」


「「「は?」」」


 5人の動きがピタリと止まった。


「え……? ディラン様、何を仰っているのですか?」


「だから、異種族間だろ? ピヨちゃんみたいにソフィアの『魔法ポッド』を使わない限り、自然には無理なんだろ? だから俺は、毎晩ただの『スキンシップ(添い寝+α)』として楽しんでたんだけど……」


 沈黙。 永遠とも思える沈黙が、寝室を支配した。


「……ソフィア。説明して差し上げて」


 セレスティアの声が、絶対零度よりも低く響いた。


「……コホン。ディランよ。……この世界には『魔力適合』という概念がある。愛し合う者同士なら、種族の壁を超えて『魂の融合』は可能じゃ。……というか、ドラゴンの魔力を持つお主なら100%可能じゃ」


「……えっ」


 俺は顔面蒼白になった。


「じゃ、じゃあ……今までできなかったのは……?」


「単なる『確率の偏り』か……あるいはお主が、最後の最後で『無意識に遠慮していた』からじゃな」


 俺は知らなかった。 この世界の常識を。 そして、彼女たちが毎晩、本気で「新しい家族」を望んでいたことを。


 俺は恐る恐る妻たちの顔を見た。


 セレスティアは笑っていた。 だが、目が笑っていない。聖母のような、しかし逃げ場のない笑顔だ。


 ヴェルザードは、部屋の鍵(魔法結界)を『カチャリ』と閉めた。


 アリシアは聖剣を置き、代わりに『精力増強ポーション(ドラゴン印)』の蓋を開けた。


「……つまり、ディラン様は」


 ノエルが、今まで見たこともない妖艶な笑みを浮かべて、俺の布団に潜り込んできた。


「『出来ない』と勘違いして、油断していたんですね? ……覚悟してくださいね♡」


「ま、待ってくれ! 心の準備が! 今日はもう寝よう!?」


「逃がしませんわ」


 セレスティアが俺の四肢を優しく、しかし強固にホールドした。


「誤解は解けました。……つまり、これからは『スキンシップ』ではなく『家族計画・本番』ということですわね?」


「観念せよ、ディラン。……今夜は、魂の髄まで語り合うぞ」


「ひぃぃぃぃ!!」


 その夜、王城の寝室からは、男の情けない悲鳴と、それかき消すほどの愛の語らい(物理)が朝まで続いたという。 窓の外では、月さえも恥ずかしがって雲に隠れたとか、隠れなかったとか。


 翌朝。 俺は燃え尽きた灰のようになっていたが、妻たちの肌はかつてないほどツヤツヤと輝いていた。 ディランの勘違いが招いた『伝説の一夜』。 これが、本当の意味での『ロイヤルベビー・ブーム』の幕開けとなった。

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