第101話 格の違いを見せてやる 聖女の誘惑と『王の拒絶』
「ねえディラン~♡ 久しぶりね。……ずっと会いたかったのよ?」
ダンジョン国の入国ゲート前。 勇者パーティーの聖女・リナが、俺の腕に豊満な胸を押し付け、上目遣いで迫っていた。
かつて俺が荷物持ちだった頃、彼女はこの手を使って俺をその気にさせ、散々利用した挙句、追放の賛成票を投じた女だ。
「私、アレクたちには愛想が尽きたの。……今の貴方なら、私と釣り合うと思うわ。ね? あの泥棒猫(魔王)なんか捨てて、私とやり直さない?」
彼女からは、安っぽい香水の匂いがした。 かつては憧れたその香りも、今の俺には鼻につくだけだった。
「……」
俺が無言でいると、背後から『絶対零度の殺気』が膨れ上がった。
「……おい、泥棒猫とは誰のことじゃ?」
「その汚い手を、私の旦那様から離しなさい」
ヴェルザード、セレスティア、アリシア、ソフィア、ノエル。 5人の妻たちが、般若のような形相で背後に立っていた。 周囲の気温が急激に下がり、地面が凍りついている。
「ひぃっ!?」
聖女リナが怯えて俺の後ろに隠れようとする。
「た、助けてディラン! この野蛮な女たちから私を守って!」
これが、彼女の常套手段だ。 男の庇護欲を煽り、盾にする。 昔の俺なら、鼻の下を伸ばして守っていただろう。
だが。
「……触るな」
俺は冷徹な声で告げ、リナの手を振り払った。
「え?」
リナが信じられないという顔をする。
「勘違いするなよ、リナ。……今の俺にとって、お前は『路傍の石』以下の価値しかない」
「な、なんですって……? 私よ? 貴方の初恋の……」
「過去の話だ。それに……」
俺は、背後に控える妻たちの方を向き、穏やかな笑顔を見せた。
「俺にはもう、世界最高の『宝物』たちがいる。……美しさも、強さも、俺への愛も。お前ごときが、彼女たちの足元にも及ぶと本気で思っているのか?」
「……っ!!」
その言葉に、妻たちの殺気が一瞬で霧散した。
「で、ディラン様……♡」(アリシア) 「はうぅ……きゅんです……♡」(ノエル) 「……ふん。口が上手くなったものじゃ」(ヴェルザード)
全員、頬を染めて身悶えしている。 特にセレスティアは、電卓を落として俺を見つめていた。
「(ああ……やはりこの方は最高ですわ。資産価値無限大。……今夜こそ、既成事実を積み重ねねば……!)」
俺は再びリナに向き直り、冷たく言い放った。
「失せろ。……二度と俺の妻たちを侮辱するな。次にその口を開けば、国交断絶どころか、この大陸からお前たちの居場所を消すぞ」
それは、ただの荷物持ちの言葉ではなかった。 一国の王としての、圧倒的な『威圧』だった。
リナは腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
「あ……あ……」
完全に勝負ありだ。 だが、それを見て黙っていられない男がいた。
「ディランんんんん!!」
勇者アレクだ。 プライドをズタズタにされた彼は、聖剣を抜いて襲いかかってきた。
「調子に乗るなよ元荷物持ちが! 魔王の威を借りてるだけのくせに! 俺がその化けの皮を剥がしてやる!」
「旦那様!」 セレスティアたちが動こうとする。
「手出し無用だ」
俺は片手で彼女たちを制し、一歩前に出た。
「化けの皮、か。……いいだろうアレク。教えてやるよ」
俺は武器も構えず、ポケットに手を突っ込んだまま、突進してくる勇者を迎え撃った。
「お前がレベル上げをサボっている間に……俺がどれだけの『地獄(妻たちの尻に敷かれる日々)』を生き抜いてきたかをな!」




