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第100話 浦島太郎な勇者たち 『追放したあいつ』の国がヤバすぎる

 ダンジョン国が『魔導スーパーカー』や『ピヨちゃんマヨネーズ』で空前の好景気に沸いていた頃。


 国境付近の荒野を、ボロボロの馬車が進んでいた。


「くそっ……。なぜだ。なぜ魔族の活動が静まり返っているんだ?」


 御者台で手綱を握るのは、金髪の美青年――かつてディランを追放した張本人、勇者アレクだ。


「魔王ヴェルザードが復活したと聞いて討伐に来たのに……魔物一匹出やしない。これじゃレベル上げもできないじゃないか」


 荷台には、疲れ果てた仲間たちが乗っている。


「アレクぅ……。もう歩けないよぉ。お腹すいたぁ」 甘ったるい声を出すのは、俺の後釜に入った聖女(自称)。


「私の探知魔法にも反応がありません。……ただ、遥か彼方から『とてつもない魔力』と『いい匂い』がします」 賢者の女が杖を握りしめる。


「ふん。どうせ魔王の罠だろう。……ディランの奴を追い出してせっかく『少数精鋭』になったんだ。俺たちだけで世界を救って、名声を手に入れるぞ!」


 アレクは空元気を出して馬車を進めた。 彼らは知らない。 ディランがいなくなってから、野営の準備も、資金管理も、戦闘の連携もボロボロになり、貧乏旅行を続けていたことを。


 そして数時間後。 彼らは、ダンジョン国の『国境ゲート』に到着した。


「な、なんだあれは……!?」


 アレクたちは絶句した。


 かつては荒涼とした岩山だった場所が、今は巨大な『光の壁』で囲まれ、空には見たこともない『鉄の箱(飛行船や車)』が飛び交っている。 地面は綺麗に舗装され、検問所には長蛇の列ができていた。


「ここは……魔王の城だよな? 未来都市か何かか?」


 混乱する彼らに、門番のオークが声をかけた。 そのオークは、パリッとした制服を着て、手には『バーコードリーダー』を持っていた。


「ヘイ、いらっしゃい。観光? ビジネス? 入国審査するからパスポート出して」


「は? パスポート? オークが喋った!?」


「あー、田舎から来た冒険者ね。……とりあえず『入国税』として、一人5000マナ(約5万円)払って」


「ご、5万!? 高すぎるだろ!」


 勇者アレクが剣に手をかける。


「俺は勇者アレクだ! 魔王を倒しに来た! ここを通せ!」


 オークはため息をつき、トランシーバーに向かって呟いた。


「あー、本部。また『自称・勇者』来ました。コードC(面倒くさい客)です。……はい、強制退去で」


 その瞬間。 空から『パトカー仕様のワイバーン』が降下してきた。 乗っているのは、サングラスをかけたコボルト隊員たちだ。


「おいそこの馬車! 『環境魔素マナ汚染』規制(馬のフン放置)』違反だ! あと騒音防止条例違反で切符切るぞ!」


「魔物が警察!? わけが分からない!」


 アレクたちがパニックになっていると、上空から巨大な影が差した。


 ズドォォォォン!!


 深紅の流星――『レッド・レクイエム号(ディラン専用機)』が着陸したのだ。 ガルウィングが開き、中からスーツ姿の男が降りてきた。


「騒がしいな。……どうした、入国トラブルか?」


 ディランだ。 今日はピヨちゃんの授業参観の帰りだったため、ビシッと決めたスーツ姿だ。 腕には『無限収納バッグ(ドラゴン革)』を持ち、指には『星の欠片の指輪』が光っている。


「ひぃっ! 王様だ!」 オークたちが敬礼する。


 俺はサングラスをずらし、騒いでいる貧相な冒険者たちを見た。 見覚えのある顔。 見覚えのある、安っぽい装備。


「……あ?」


「……え?」


 時が止まった。


「お前……ディランか?」


 アレクが信じられないものを見る目で俺を見た。


「嘘だろ……? お前、俺たちが追放した時は『ボロ布』みたいな服を着てたじゃないか! なんだその高級そうな服は! その巨大な乗り物は!」


「ディラン!? ディランなの!?」 聖女や賢者も馬車から飛び出してきた。


「あー……。久しぶりだな、アレク」


 俺は気まずそうに頭をかいた。 正直、今の俺にとって彼らは『過去の遺物』すぎて、怒りよりも「懐かしい骨董品」を見るような感覚だった。


「見ての通り、ここで再就職してな。……今は一応、この国の『王様(兼・雑用係)』をやってる」


「はぁぁぁ!? 王様ぁぁ!?」


 勇者たちの顎が地面に落ちた。


「ふ、ふざけるな! お前なんかが! ただの『器用貧乏』だったくせに!」


 アレクが顔を真っ赤にして叫ぶ。


「俺たちはこんなに苦労してるんだぞ! 宿代もなくて野宿して、魔王を倒すために……!」


「ああ、魔王ならそこにいるぞ」


 俺は助手席を指差した。 そこには、ヒョウ柄のスパッツを履き、ソフトクリームを舐めている美女――ヴェルザードが座っていた。


「……ん? なんじゃディラン。知り合いか?」 ヴェルザードが気だるげにこちらを見る。


「ま、魔王ヴェルザードォォォ!?」


「なぜここに! しかもヒョウ柄!?」


「ああ、今は俺の『妻』だ」


「「「つまぁぁぁぁぁ!?」」」


 勇者パーティーの思考回路が完全にショートした。 追放した荷物持ちが、魔王と結婚し、未来都市の王になり、スーパーカーに乗っている。 この現実は、彼らのプライドを粉々に粉砕するには十分すぎた。


「さて、と。……アレク。昔のよしみだ」


 俺は懐から『アメちゃん(O-SAKA産)』を取り出し、彼らの手に握らせた。


「観光なら歓迎するぞ。……ただし、ウチの国は物価が高いからな。金がないなら、ハロワ(冒険者ギルド)を紹介してやるよ。……今なら『道路工事の交通整理』が日給1万マナだ」


「く、屈辱だ……!」 「でも日給1万……今の私たちの月収より高い……」


 勇者たちは震えていた。 圧倒的な格差。 これは、かつて彼らを見返してやりたいと願った俺の、完全なる勝利ビクトリーだった。


 だが、これで終わる彼らではなかった。 聖女(元カノではないが、俺に気を持たせて利用していた女)が、猫なで声で近づいてきたのだ。


「ねえディラン~♡ やっぱり私、貴方のことが忘れられなくて……」

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