表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

宣戦布告と二つの光

カイの自己犠牲的な儀式により、リコはついに癒しの眠りから目覚める。しかし、平穏は束の間、闇の一族からの正式な宣戦布告が、全世界へと放たれる。彼らは、世界樹の力を奪うため、大軍を率いて、嘆きの森への進軍を開始。リコたちは、光の力を結集し、これを迎え撃つことを決意する。

満月の光が、アクアリアの神殿に静かに降り注ぐ中、カイの「魂の同調」の儀式は、クライマックスを迎えていた。彼の生命力が、青い光の奔流となって、リコの中へと注ぎ込まれていく。その光景は、神々しくも、どこか儚く、見守るアレンの胸を締め付けた。

カイの顔色は、みるみるうちに蒼白になっていく。だが、彼の瞳には、迷いも後悔もなかった。

(…届け…僕の想い…)

その想いが通じたかのように、リコの指が、ぴくり、と動いた。そして、固く閉ざされていた彼女の瞼が、ゆっくりと、持ち上がっていく。

現れた、その瞳。それは、以前よりも、さらに深く、澄み渡った、慈愛の光を宿していた。

彼女は、目覚めたのだ。

「…カイ…様…」

か細く、しかし、はっきりとした声で、リコは、彼の名を呼んだ。

「…よかった…」

カイは、安堵の笑みを浮かべると、ついに、限界を迎え、その場に、崩れ落ちた。

リコは、カイの犠牲によって、命を繋ぎとめただけでなく、彼の持つ「水の力」の一部を、その身に宿していた。彼女の癒しの力は、さらに、その次元を高めたのだ。

彼女が、意識を失ったカイの手に、そっと触れると、温かい光が、彼を包み込み、失われた生命力を、ゆっくりと、回復させていく。

「…なんて、ことだ…。巫女様が、カイ様の力を…?」

長老たちが、奇跡を目の当たりにして、息を呑む。

光と水。二つの力は、今、一人の巫女の中で、完全に、融合したのだった。

しかし、彼らが、その奇跡に、安堵する時間は、長くは、続かなかった。

突如として、アクアリアの、空全体が、どす黒い、不吉な、暗雲に、覆われたのだ。

そして、その暗雲から、大陸中に、響き渡るような、禍々しい声が、轟いた。

『――聞け、光の残党と、それに与する、全ての、愚か者どもよ』

それは、闇の一族の長、その人の声だった。彼は、強大な瘴気の魔法を使い、その意思を、全世界に、伝播させていたのだ。

『我ら、闇の一族は、本日、ここに、宣戦を布告する。永き眠りの時は、終わった。この世界は、我らが、真理の元に、統一されるべき時が来たのだ』

その声は、聞く者の、心を、絶望と、恐怖で、凍てつせる、邪悪な、波動を、含んでいた。

『世界樹は、我らが、力を、示すための、礎となる。一月後、我らは、全軍を率いて、嘆きの森へと、進軍する。我らが、理想郷の、誕生を、邪魔立てする者は、一人、残らず、塵と化すだろう。光の巫女よ、お前の、無力な、癒しごっこも、そこまでだ…』

一方的な、宣戦布告。

そして、声は、嵐のように、去っていった。

後に残されたのは、恐怖に、顔を、引きつらせる、人々だけだった。

「…ついに、始まったか…」

神殿の、テラスで、空を見上げていた、アレンが、厳しい顔で、呟いた。

その隣には、いつの間にか、回復した、カイが、立っていた。そして、その二人を、リコが、静かに、見つめていた。

「…一月…」

カイが、呻くように、言った。「闇の軍勢は、数万とも、数十万とも、言われている。対する、我々の、戦力は…。あまりに、無謀だ…」

彼の言う通りだった。水の民は、戦いを、捨てて、久しい。アレンのような、騎士も、数が、少なすぎる。世界樹の、門番である、エルダも、森の、精霊たちも、直接的な、戦闘能力は、高くない。

圧倒的に、不利な、状況だった。

しかし、リコの瞳には、絶望の色は、なかった。

「いいえ、無謀では、ありません」

彼女は、きっぱりと、言った。

「闇が、その、姿を、現したのなら、私たちも、光を、集めればいい。この世界の、どこかに、必ず、いるはずです。闇の、やり方に、疑問を持ち、光の、調和を、信じる、人々が」

彼女の、視線は、はるか、遠くを、見つめていた。

「私たちは、嘆きの森へ、向かいます。そして、世界樹を、最後の、砦として、彼らを、迎え撃つのです。それまでに、一人でも、多くの、仲間を、集めなければなりません」

それは、あまりに、困難な、道だった。

しかし、彼女の、揺るぎない、覚悟を前に、アレンも、カイも、もはや、何も、言えなかった。

彼らの心もまた、決まっていたからだ。

「…わかりました」

カイが、頷いた。「我が、水の民は、全勢力を、挙げて、あなたと、共に、戦いましょう。もはや、我々は、過去に、囚われては、いない」

「俺も、もちろんです」

アレンが、剣の柄を、握りしめる。「あなたの、剣として、いかなる闇も、切り払ってみせます」

リコは、二人の、頼もしい、仲間に、微笑みかけた。

彼女の、右の手には、癒しの、黄金の光が。

そして、左の手には、カイから、受け継いだ、守りの、青い光が、灯っていた。

光と、水。

二つの、希望の光を、その手に、宿し、始まりの巫女は、今、世界の、運命を、懸けた、最後の戦いへと、赴く。

彼女の、呼びかけに、応える、新たな、光が、現れるのか。

それは、まだ、誰にも、わからなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ