後編
放課後、僕らは音楽室に向かった。
「なんだか不気味だね」
「誰もいないし…」
「これで本当にオバケがでたらどうしよう」
女の子は3人組だ。みんなで肩を寄せ合い少し緊張している。
晴人は幽霊を連れているが、3人は幽霊が見えていない。
(実はもうみんなの前には幽霊いるんだけどな…)
無言の幽霊を横目に見ながら考えてるうちに音楽室についた。
教室は夕方の日差しがカーテンの隙間から差し込んでいる。
ベートーベンやショパン等の音楽家たちの自画像が壁に貼られていて妙に空気が重い。
問題のピアノは教室の前側に置かれていて、綺麗に掃除もされている。そしてもちろん誰もいない。
「本当に勝手に音が鳴るのか」
ピアノの周りを晴人と幽霊は見てみる。
幽霊は自由自在だ。ピアノの周りをぐるりと一周している。
「ねえ、これ見て」
床にナッツが落ちているのを発見した。
誰かが教室で食べているのだろうか?
「ねえ幽霊、ピアノの中って覗けたりするの?」
女の子たちには聞こえない声で話しかける。
「できるわよ!」
幽霊は透けているので、ピアノを貫通できる。
「特に何もないわね」
「…何もないみたいだな」
「なーんだ、やっぱただの噂じゃん」
女の子のうちの1人がそう言い切ろうとした時
ポーン
ピアノが鳴った
しかも
ポンポーン
連続で鳴る
「ギャャーーーーーー!」
女の子たちは教室を飛び出してしまった。
僕も一瞬腰を抜かしそうになるが、よく音を聞いてみるとどうやら目の前のピアノからではない。
「奥から聞こえるみたいね」
幽霊が教室の奥の扉を指す
「ここか!」
扉を思いっきり開けた。
開けるとそこには埃被ったピアノがあった。
そのピアノの鍵盤が勝手に動いてるではないか。
「これは…どういうことだ」
「見てみる!」
即座に幽霊がそのピアノの中を見に行く。
いつもやる気がないのに、今日はなんだが元気だ。
「あ!」
「なんだ!なにか見つかった?」
「…こいつのせいだわ」
なんとピアノの中には大量のナッツと、ねずみの巣があるじゃないか。
「ネズミだったのか」
このピアノは昔使われていたものだろう。今は使われておらずこの部屋に放置していたらネズミがどこからかやってきて巣を作ったと。
どっから拾ってきたのかナッツの食べカスを大量に集めている。
さっきも落ちていたな…先生が教室でこっそり食べているのか?どうやらこのナッツが原因でネズミが寄ってきたらしい。
なんでナッツが教室に落ちているかは謎だが、ネズミが出入りする時、ピアノの弦に当たって音が鳴っていたのだ。
僕は女の子たちを呼び戻して先生を呼ぶように頼んだ。
みんなで状況を説明して、ネズミは可哀想だが巣ごと移動させられた。
辺りは暗くなって下校の時間をとっくに過ぎている。
女の子たちもネズミだとわかった瞬間ケロッとした顔に戻っていた。
「はるとくんって、意外と勇敢なんだね!」
帰り際、女の子の1人に言われて、僕は少し嬉しくなった。
幽霊がいてくれたおかげなんだよなあ。
僕はまたいつも通りやる気がなくなっている幽霊をチラッと見た。
「…なによ?」
「なんでもない」
僕は暗くなった夜空を見ながらすこし口角をあげる。
それからというもの、僕と幽霊は学校で不思議なことがあると放課後2人で向かうようになった。
なんやかんやでいいコンビだ。
彼女はまだ僕の願いを叶える気は無さそうだが…。
僕は友達は少ないけど、幽霊がいてくれるならそれでもいいやと少しだけ思えてきた。みんなに好かれようなんて、無理な話なのかもしれない。人気者になりたいなんて思わなくなっていた。
次第に彼女のやる気のなさもツンとする仕草も良いなと思えてきた。
だからぼくはふと気になった。
もし僕の願いがなくなってしまったら、どうなるのかと。
もし僕が幽霊を好きになってしまったら、
どうなるのかと…
そんなことを思いながらも、今日も僕は幽霊と過ごしている。