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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

たのしい「□の窓」

作者: 壱原 一

あまり詳しくないですがオカルトホラーふんわり好きです。


最近「□の窓」を知って、凄く楽しくて嵌りました。


特定の形に手指を組んで、作った隙間を窓に見立て、疑わしいものを収めて覗くと正体を見破れます。


一方の掌を此方に、残る掌を彼方に向ける行いが、此岸と彼岸を開通させる意図を表す呪術的しぐさの一種だそうです。


種類によっては、所定の文言を唱えたり息を吹き掛けたりして、覗いて見破った怪しいものを追い払えさえするんだとか。


本当に見えると思わなくて、知って直ぐその場で試したら、小学生の頃に亡くなった優しかったお□さんが先に覗いて待ってくれていて、「えー、ずっと近くに居てくれたんだ」って何だか嬉しくなりました。


それで色んな所を覗きました。


実家の階段の最上段に虹の橋を渡っちゃった猫のしっぽが揺れていたり、近所のお家の柵の先端に黒いどろどろした小さな人が刺さっていたりします。


横断歩道の電柱の傍でにこにこ色紙を眺めながらジュースとお菓子を飲み食いしている学生服の人が座っていたり、ビルの屋上で地上を覗き込む作業服の人が両手で頭を抱えて悶えつつ何か叫んでいる素振りをしていたりします。


「□の窓」を覗くと見えます。覗かなければ見えません。


乾いたひらひらの人の皮が木の枝に引っ掛かってはためいていたり、遠くの大型商業施設がいつも炎に包まれ濛々(もうもう)と煙を立てていたりします。


机の上を根元にお肉が付いた爪の連なった虫が這ったり、皮膚が黄ばんだ緑色で途轍もなく筋肉質な人が、お数珠を持って手を合わせ静かに目を閉じている尼僧服の人の頭を鷲掴みにして歩いて行ったりします。


色んなものが居るんだなぁとすっかり感激してしまって、もっと色々みたくなって、あまり詳しくないなりにちょっと探しました。


そうしたら、あの後ろのドアの所にお茶碗のせたお盆を持ってる青いチェック柄の割烹着の人が立っています。


ご家族の方?


あ、そうしたら、全国各地で回収された呪術的に処分に困るものを国防上の要所に集めて砦の代わりにしているって、それは流石に面白過ぎるスポットを紹介されて。


行きました。何が見えるかなぁって。今の時期は海風が強くて寒かったです。


ずぅーっと広い何もない土地に、電線のない電柱がぽつぽつぐるっと建っていて、覗くと普通の電柱なら電線が通っている辺りに、物凄い数のお札みたいな白い紙がこんもりびっしり延々と垂れ下がっていました。


途中まで糊で固まっていて、固まっていない先の方だけ風でびりびり震えているような見え方です。


その囲いの内側に、ぎゅうぎゅう詰めで、かなり大きな白い服の人とか、ふにゃふにゃ揺れている細い人とか、人の顔をした動物とか、服を着て直立している魚みたいなものとか、怒髪天を衝いている首、針、公衆電話ボックス、兎に角たくさんひしめいていました。


ん…ここにも虫。


え?


ええとそれで…それで、ええと、そう、そういうオカルト的なこと、好きだけど、詳しくなくて、一通り覗いていたら、ずっと近くに居てくれる向こうから覗くお□さんに急に両手を掴まれて窓に顔を突っ込まれたんです。


そうしたら、他の覗いていたものも、一斉にこっちへ寄って来る空気の感じがして、取り敢えず避けなきゃ逃げなきゃと思って、咄嗟に、脊髄反射的に、お□さんの手を振り払いながら、「□の窓」を解きながら、自分の歩いて来た方を振り返ろうとしたんです。


帰ろうと思って。


いつもそうやって普通に窓を解いて、全く何もなかったので、ちっとも知りませんでした。


「□の窓」、種類によっては、所定の文言を唱えたり息を止めたり、覗いていたものから窓を逸らすとか、自分の目を窓から逸らすとか、そういう「閉じる」ための作法を完璧にしてからじゃないと、窓を解いちゃいけないなんて、全然しらなかったんです。


ここで色々お話を聞いて、そのとき初めて知りました。


そんなの教えてもらってなかった。


そもそも誰に教わっていたのか。


こんなに近くにずっと居て、この年代この背格好なら、小学生の頃だからあんまり覚えていないけど、他に思い当たる人いないし、てっきり優しかったお□さんだと思っていたんです。


だけどあなた知らない人。


知らない人ですよね。


ねー。


ふふ。嬉しそうにして。


そんな顔しても駄目なんだよ。


はい?


…はい。分かります。何から何まで見破って、閉じないで解いちゃった所為で、全国各地で回収された呪術的に処分に困るものを国防上の要所に集めて砦の代わりにしていたのが、みぃんな出て行っちゃったんですよね。


幾つか眼や耳や鼻の孔と、口から脳に入られて、情報として処理されて、焼き付いて蓄積されちゃったから、窓なしで全部みやぶれる、国防上の要所で回収された、呪術的に処分に困るものに、なっちゃって、戻れないんですよね。


回収のお手伝いですか。


勿論です。何でもします。


破れちゃった紙の代わりに、ずぅーっと広い何もない土地で、今度こそ何があっても一つも出て行かないように、ぽつぽつぐるっと取り囲んで、いつも見張れば良いんですね。


分かりました。


ここにも虫。


あっ、すみません。ありがとうございます。


いい匂い。お□さん、頂きましょうか。


この度はどうも突然、お邪魔しています。


…あの、こちらご家族の方?



終.

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