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優先席を卒業

それはある電車内での出来事だった。


相変わらず優先席に座っているのは、

学生とサラリーマン。

年寄りはうらめしそうに、

優先席の方を眺めながら、

ドア近くのポールを握り締めている。


私はといえば、そんな光景に、

僅かばかりの苛立ちを覚えはするが、

今更何をするわけでもなく、

つり革につかまって本を読んでいる。


どれくらい時間がたっただろうか...。

車内がなんとなくザワッとしたようで、

私は本から目をはずし、周りを見渡した。


優先席に座っている男子学生に目が止まった。

大きく足を広げて、尻を前にずらしてだらしなく座っている。

寝ているのか、ただ目をつむっているのか、

ヘッドフォンからはシャカシャカ音が漏れている。


いつも通りのことだ。

ただ、さっき見た時は金髪だったように思うが、

今は妙に白っぽく見える。

それに体がひとまわり小さくなったように感じる。


私のとなりに立っている男が声をかけてきた。

「気づきましたか?」

「あの優先席の学生おかしいでしょ?」

男は私の返事を待つわけでもなく、

さっきからずっと見てるんですがね、と続けた。


男の話だと、

あの男子学生は、この10分ほどの間に年を取ったのだという。

髪が白くなり、顔に皺が増え、みるみる老人のようになったのだという。

まさかとは思うが、実際に男子学生は言われる通り老人のようだった。

男と話をしている間にも、背中が丸くなり、腕も細くなってきたようだ


男子学生が目を明けた...

降りる駅が近づいたのだろうか。

立ち上がろうとして異変に気づいたようだ。


体が思うように動かないらしく、

ぎこちなく椅子に手をついて立ち上がった。

自分の手を不思議そうに見ている。

カサカサで皺だらけの手だった。

ヨロヨロと年老いた男子学生は電車を降りていった。


空いた優先席に老女が座った。

足が痛いらしく、しきりに膝をさすっている。


ふと、優先席のあたりが明るくなったような気がした。

老女の表情が急に華やかになったように感じた。

老女はもう老女ではなかった。


女子学生は照れたように優先席を立ち、

ドアのところでポールを握っている老人に声をかけ、

席を譲った。


私も隣の男も固まったように、

その様子を見ているだけだった。


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