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第二十八話 epilogue

 

 この事件から十年の後、ミケーレの姿は見かけられなくなった。

 最初の二、三年はそうでもなかったが、五年が経った頃には、ヴァチカン市国にもほとんど姿を見せなくなった。年に一度か二度、依頼を受ける程度になったのである。昵懇であった枢機卿とも距離を置いているようだった。

 さらに二年が経つと、ヴァチカン市国でミケーレを見た者は誰もいなくなった。

 ミケーレを疎む者たちはそのことを喝采した。彼らにしてみれば、カトリックの総本山のヴァチカン市国を、忌み嫌う吸血鬼風情が闊歩するなど本来は許せなかったのである。

 ある者などは、


何処どこぞで、くたばったのではないか」


などと罵っていたが、通り掛かったマリアの姿を認めると、さすがに顔色を失い、口を噤んだ。マリアとミケーレの関係や、他に類を見ないほどの実績・功績を知っていたからである。どう言おうと、所詮は彼らの妬み・嫉み、やっかみでしかなかったのだ。



 マリアはミケーレが姿を消した一年後、教会を辞めた。

 最後にマリアを見送った近しい者は、あれほど嬉しそうな彼女を、これまで見たことがない――と後に語っている。

 事実、その時にマリアが浮かべた微笑を、その人物は生涯、忘れることはなかった。



 マリアが職を辞した半年後、教会である事件が発覚した。

 それが発覚した発端は、過去の〝切り裂きジャック〟事件や〝イル・モストロ〟事件などの猟奇事件に関する資料を調べようとした職員がデータベースにアクセスしたことからであった。

 当時、異端審問会から派遣されたのがマリアである――というところまでは突き止めたが、事件の内容は簡潔な報告のみが残されているだけで、どのようなことがあったのかなどの詳細は不明になっていた。

 その他にも、ミケーレとマリアが関与した事件、二人の写真・画像・映像、あるいは文書といった類の物がすべて消去されていたのだ。復元やデータのサルベージが出来ないほど、完膚なきまでに抹消されていた。

 一部では、マリア自身が犯人ではないかと目されたが、そうと断言出来るほどの証拠もなく、すでにマリアとは連絡が取れなくなっていたので、ことの真相は闇の中であった。

 管轄部署の担当者たちは、その失態を上には報告せず、揉み消した。彼らの上司の枢機卿は戒律や規則に厳格な〝堅物〟として知られた人物で、その上司が転属するまで、失態をひた隠しにしようと決めたのだ。彼らは自分たちへの懲罰を恐れたのである。

 その後、一、二年もすると、隠蔽した彼ら自身が秘匿した問題そのものを忘れた。



 四十五年後、マリアと面識のあった最後の修道士が老衰で亡くなった。

 結果、教会において、マリアの顔を知る者は誰もいなくなった。

 マリアが教会を去って以降、これまで、二人を目撃したという報告は挙がっていない。


 ただ――時折り、教会の人々の口の端に上る噂があった。

 一組の男女の噂である。

 奇怪な事件が起こると、稀に係わってくることがあるらしい。その二人が出張ってくると、事件はあっさり片が付くというのだ。

 なかには、小さな女の子を連れていた――と証言する者もいた。

 その噂を聞く度に、マリアと仲が良かった前述の修道士は、身内を褒められた好々爺のように嬉しそうに微笑んでいたそうである。



 伝えられる女性の容姿は、眩いばかりの金色の髪と碧い瞳をした、とても美しい女性だったという。


                                  完




 

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