第4話 私、気になります
リイン邸、地下二階。石造りで、薄暗く広い部屋には骨董品がところ狭しと並べられている。そこで天ヶ瀬月夜はただ一人、歩きながら悩んでいた。
因みに月夜は道中も同僚のメイドなどに様々なお願い事をされてきたが「すみません、緊急です」と言って、駆け抜けてきた。速すぎて聞こえていたかどうかは別として。
「『緊急』だそうですが……今回は具体的ではありませんね」
通常、指令は具体的な内容だ。だが、今回はそうでなかった。「屋敷の地下二階へ向かえ」……これでは月夜はもう既に任務を完了したことになる。
「もう、自室に戻ってもよいのでしょうか」
顎に手をあてて、黙考する月夜。
――本当にここに来ることだけが指令? 私が聞き違えた? いや、それは有り得ない。指示は一言一句、覚えている。ならば隠された意図があるはず……。
……ふと、視界の中に入ったとあるモノが気になって足が止まる。
「なんでしょう、コレは」
それは奇妙な形をした、いびつな壺だった。……まるで、こちらを誘っているかのように施された不気味な模様。月夜は次第に目が惹かれていってしまう。好奇心。誰もが有する、ありふれた感情だった。
「私、気になります」
思考が、乱れる。どうしてこんなただの壺に正気をもっていかれるのだろう。
……月夜は無意識に、手を伸ばしていた。少し。あと、もう少し。
「えい」
そう、なんてことはない。ただ月夜は指先でチョンとその壺に触れただけだった。高価なものだったとしても、所有者がかんかんに怒るような程度だろう。
「なにをしているんでしょう、私は」
もしかしたら、今までに一度もなかったことだったかもしれない。何かに気を取られて任務を忘れる――。それほどまでにこの壺には価値があるのだろうか。
ふと、我に返ってまた任務のことを考えようとした。
その刹那。
突然、眼前がまばゆい光に包まれてゆく。
月夜は反射的に腕で自身を守り、目をキュッと細めた。
「なっ、なな、なんでしょうこの光はっ――!?」
その場を離れようとするも、なぜか身体が硬直してしまって動けない。
「くっ……!」
完全に何も見えなくなったと同時。意識を失った。
◇◇◇
「月夜さんっ!」
地下の扉が勢いよく開いた。先ほどの黒髪の青年だ。恐らく心配になって後を追いかけてきていたのだろう。
辺りをうろうろと歩き回って、月夜を探す。だが。
「………………」
リイン邸、地下二階。様々な骨董品が飾られている石造りの大広間には。
人の気配など、もうどこにもなかった――。
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