第3話 私、色々頼まれます
月夜は早朝の報告を終えた後、自室から窓の外……邸宅から少し奥、規制線の向こう側にある景色を見ていた。
「……」
月夜の視線の先には――人、人、むせかえる程の人だかり。軽く数千人は超えているだろう。
「是非、我が国でもう一度、料理を作ってくれないか! 日本円で億を出そう!」
――先週、海外に渡航した際にコース料理をふるまったら気絶してしまった王様。生きてて良かったです。
「彼氏がいるって本当なんですか!? これは不祥事ですよ、不祥事! ハァハァ。あ、私と付き合ってくださへぶぅ」
――幼稚園の頃からずっと私のことを追いかけまわし、週刊誌の一面に無理やり事実をでっちあげて取り上げてくる記者さん。今、またおまわりさんに捕まりました。これで十三回目ですね。
「わらしとお酒を飲みましょう!!!」
――昨日の酔っ払いさん。まだ飲んでいたんですね。……他にも、たくさんの方々がいらっしゃいます。
「……皆さん、もしかして」
天ヶ瀬月夜は、考えた。どんな方程式も解ける頭脳で考えた。結論は。
「この屋敷に住みたいのでは……」
かなり見当違いのものだった。どうにかしてリインが屋敷を増築してくれないものかと考えていると。
コン、コンと丁寧に部屋をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
入ってきたのは、白いスーツを着た黒髪の青年だった。これまたどこかのお偉いさんだろうか。しかしながら大胆に、月夜に近寄った。
「いやぁ、貴女に一度お会いしてみたかった。本当に綺麗なお方だ」
月夜は、ほんの少しだけ視線を逸らして一礼した。
「……有難うございます」
「早速ですまないが一つだけ、頼みがあるんだ」
「どんな用件でございましょうか」
はて、と首をかしげる月夜。
「それはね――」
青年がその頼みを口にしようとした、その時だった。
「ちょっと失礼するよ! 月夜くん、大急ぎで屋敷の地下二階に来てくれたまえ!」
リインが大急ぎで青年の後ろから顔を出し、息を切らしながら声をかけてきた。
「ちょっと待て! 今は俺が話している最中――」
「緊急だ!」
青年に対して、引っ込んでいろと言わんばかりに声を張り上げるリイン。
「ッ! かしこまりました」
リインから「緊急」という単語が出た時は、全ての事柄において優先される国からの指令。それを月夜は瞬時に把握し、血相を変えて。
キィン、という音とともに消え去るような速度で屋敷の地下へと向かっていくのだった。
「待ってくれ」と背後から聞こえる声に、後ろ髪を引かれながら――。
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