第2話 私、なんでもやります
リイン・ルーベカ。海外の探検家でありながら、大富豪である。なんでも未発見の宝石や生物を次々に見つけ出し、それを公表しては大金を稼いでいるらしい。ちなみに名称はリイン・ストーン、リイン・インセクト。……あまりに自己主張が強すぎる。
そんなリインは突如、日本へと移り住んできて豪邸を建てた。
……とあるメイドの噂を聞いたから、である。
◇◇◇
都心にドンと居を構えている、大理石を基調としたリイン邸。石塀と街路樹に囲まれている。正面玄関、鉄格子の門から広がる景色は……途方もなく広い庭、そして噴水。たくさんの使用人が今日も生垣の手入れをしている。
そんな邸宅の、執務室。
「やぁやぁ月夜くん! 昨日は何件、こなして来たのかな!?」
アンティーク調のソファーに深々と腰を掛け、偉そうに足を組んだ探偵のような服装をした金髪の人間。――この家の主にして探検家のリイン・ルーベカ、その人である。彼か、彼女かは……不明。
「二百五十四件です、主様」
ルーベカの問いに対して月夜は表情一つ変えずに、報告をする。
「あっは! 最高記録じゃあないか! いやー、君を雇って正解だったよ。僕の目に狂いはなかった」
リインは手を叩きながら笑って、そう言った。
「有難うございます。お褒めの言葉を賜り、光栄の限りです」
月夜はゆっくりと頭を下げる。
「しかし毎日、よく働いているよ。尊敬するね。いやいや、本当に。……だが、飼い犬のようだとは思わないのかい?」
本当にそう思っているのか、と誰が見てもそう思うであろう飄々とした態度で言う、リイン。
「『特例指定国務』……十七歳で最年少の君に対して残酷なものを背負わせるねぇ、お国は」
特例指定国務。自国の中でも特に優れた能力を総合的に有した人間には年齢を問わず強制的に政府から雇用され、なんでも屋のような仕事を押し付けられる。……本当に、なんでも――。
しかし、そこに待ったをかけたのがリイン・ルーベカ。「それでは非効率だろう? 私ならもっと上手くやれる」といって持ち得る限りの財力を全て擲ってまで月夜を雇った。だが、政府も黙ってはいない。最終的に、政府が課した任務をリインが選定する形として収めた。
月夜は顔を上げて。
「……いえ」
毅然とした態度でキッパリと、こう言い放った。
「私にしかできないことなので」
それを聞いて突然俯いたリイン。
「……」
「……主様?どうなさいまし――」
月夜が心配して声をかけようとした、その時。
「アッハハハハハ!!! 君はやっぱり面白い!」
探検家らしい、呵々大笑。涙で目がにじんでいる。
「いやー、ありがとう。君と話していると飽きないよ。さぁ、報告は終わったんだから行くといい。忙しかろう」
リインは、さぁ行った行ったと手を扉に向かって突き出す。
「では、失礼します」
月夜は淑やかに一礼して、執務室を後にした。
「君には期待しているよ」
雇い主の翡翠色をした不気味な眼差しは、一体どこを見据えているのか――。
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