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1.青年アルス

毎日投稿で行きますので

感想や評価などしてくれると喜びます!!




「大丈夫? そろそろ出る時間だけど」


 小鳥の鳴き声が澄んだ朝空へ溶けていく早朝。アルスの頭上から、心配そうな声が降ってきた。


 まるで遠足前の子供にかけるような台詞だが、当のアルスは濃紺のジャケットにスラックスを着込んだ立派な成人男性である。

 にもかかわらず情けないほど落ち着きがなく、遅刻寸前の焦りまで相まって今にも泣きそうな顔をしていた。


「えーっと。講義資料持った、メモ帳持った、ペン持った……」


 前日に何度も確認した持ち物リストを、アルスは穴が開きそうなほど見つめてはチェックを入れていく。


 ちなみに、同じチェック欄に印をつけるのはこれで五回目である。


「前日にあんだけ準備してたんだから大丈夫よ。どっしり構えなさいっての」


 呆れと慣れが混じった、鈴を転がすような声。


 アルスの前に立つ彼女は、「もう」と腰に手を当てながら小さくため息をつく。きっと本人だって緊張しているはずなのに、こういう本番前はいつも凛としていて、不思議と頼もしさがあった。


「そ、そうなんだけどいくらやっても心配でさぁ~……」


 対するアルスの声は、寝起きのせいか酷く掠れている。緊張も相まって、まるで余裕が感じられない。


「もーほら、ネクタイ曲がってる。こっち向いて。あとでお弁当持って応援行ったげるから、恥ずかしいとこ見せないでよ?」


「はい……」


 アルスはとうとう一人で身支度を整えるのを諦め、されるがままになる。


 最近に始まった話ではないが、こういう時いつも彼女の方がしゃんとしている。威厳というか、頼り甲斐というか――少なくとも、自分が見せたかった姿はまだ彼女に見せられていない気がしていた。


「──やっとだね」


 ネクタイを整えながら、彼女がぽつりと呟く。


「うん」


 主語のない短いやり取り。

 それでも、そこに込められた想いはきっと同じだった。


「──よし! カッコいい! 自信もって行ってきなさい!! アルス!」


 最後に、どんっと胸を押される。

 思わず咳き込みそうになるほど勢いのある激励だったが、不思議と力が湧いた。


「……ありがとう」


 込み上げる想いはたくさんあった。

 けれど今は、それを胸の奥へ押し込める。


 一言だけ感謝を告げてから――


「じゃ、行ってきます!!」


 青年アルスは、世界を変える最初の一歩を踏み出した。



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