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第三の人生

ご注意:本作品には、主人公が育った時代背景を反映し、現代では差別的とされる表現が一部含まれています。これらは昭和時代の風習や価値観を忠実に描写するためのものであり、差別を助長する意図は一切ございません。当時の文化や社会の在り方を理解する一助となれば幸いです。

作品の趣旨をご理解いただいた上で、ご鑑賞いただければと思います。

(※毎回このフレーズが入ります)

 テイラーから聞いた話だと、この世界に来た者はいつ消えちまうのか分からないらしい。

 期限は現世にある自分の身体の寿命次第か?


 心機一転、この世界で第三の人生を歩もうと決心した途端に「ハイそれま~でぇ~よ」って事になるのも知れねぇって事だ。

 無責任男じゃあるめぇし、やってられっか! と言いたくなるわな。

 だからと言ってオークみたいな生活を送ったところで空しいだけだ。

 ゴブリンには絶対なりたくねぇ。


 とすると、やはりこの街での生活を楽しむ以外に道はねぇって事なのか?

 何か生き甲斐というか、生きる目標ってのがねぇのか?


 ……そういやぁ、姉ーちゃんが言ってたな。

『その世界を支配している魔王をその座から引きずり落してくれ』って。

 そんなものは居ないとリチャードは言っていた。

 しかしリチャードが知らねぇだけかも知れない。


 気になってテイラーに聞いてみた。


「テイラーは聞いたことがあるか?

 このけったいな世界を魔王ってヤツが支配しているって」


「魔王? イサムは認知症を発症してこの世界に来たと言ってたけど、こっちでもそうなのか?」


「おいおい、ボケ老人扱いは勘弁してくれ。

 ここに来る前、女神だっていうお姉ーちゃんにそう言われたんだ。

 リチャードはそんなのは居ねえって言ってたが、本当にそうなのか聞いてみただけだ」


「女神様がか?

 だとすれば迂闊な事は言えないな。

 少なくともこの街は魔王と称する者に支配はされていない。

 だが、他の街がそうなのかまでは私は知らない。

 もし魔王が居たとしたらどうするつもりだ?」


「さあな。だけどこの世界にやって来て、何時自分が消えちまうのかか分からない毎日を悶々と送るってのは性に合わねぇ。

 だったら魔王ってヤツをぶん殴って、困っている人の役に立ってみようかと考えただけだ」


「そういう考えは嫌いじゃないな。

 ここの他にある街へ行けば何か情報が入るかも知れない。

 駅馬車が走っているからそれに乗れば行けるだろうが、好き勝手に乗れる訳ではない。

 この街でそれなりの立場の者が何かしらの使命を持って移動するためのものだからな」


「それなりってのはどれくらいのそれなりだ?

 リチャードが駅馬車に乗っていたって事は事務員でも乗れるって事じゃねぇのか?」


「知らないのか?

 リチャードは互助会(サポートセンター)の会長だぞ」


「へ? かいちょ?

 リチャードが?」


「そうは見えないだろうが、リチャードはこの街の実質町長みたいな者だ」


「あの冴えないリチャードが会長だなんて思ってもみなかったぜ。

 もしかして何か特別な力でもあるのか?」


「聞いた事はないが、少なくとも人望はある。

 世話好きだし、この街も長い。

 よその街との繋がりを提案したのもリチャードだと聞いている」


「じゃあ、リチャードに頼めば他所の街へ行かせて貰えっかも知れねぇってことか」


「ああ見えてリチャードは意外と慎重な男だ。

 何の理由もなしに駅馬車に乗って他所へ連れて行くとは思えないな。

 トラブルになる事だってある」


「そーかも知れねぇが、時間が限られているってんだったらあまりのんびりとは出来めぇ。

 ちょっくらひとっ走りリチャードんところへ行って頼んでくらぁ。

 ダメならダメでどうすれば良いか教えてくれるだろう。

 黙っていちゃあ物事は何も始まらねぇからよ」


「それはそうだな。

 それにしても私が知る日本人とはもう少しシャイな人たちばかりだと思っていたが、イサムは違うみたいだな」


「人それぞれだ。最近の若ぇ者は上品なのが多いからあながち間違いじゃねぇよ。

 俺はテイラーの国と戦争していた時代に生きた人間だ。

 遠慮なんかしていちゃあ食いモンにあぶれちまうよ」


「イサムはWW2を経験したのか・・・もしかして原爆を落としたアメリカを恨んでいるのか?」


「それはねぇぜ。実際に戦ったのは親父達だが、全力で戦っての結果だ。

 恨むのは筋違いってもんだろ?

 テイラーこそ真珠湾攻撃を許さねぇってクチか?」


「多くのアメリカ国民は許さないと言っているが、私は違う。

 少なくとも真珠湾は軍事施設への攻撃であり、民間人を含めた無差別攻撃である原爆投下を正当化できるとは思っていない。

 もし原爆投下を正当化してしまったら、私たちはウクライナやパレスチナ自治区で起こっている紛争の解決にABC兵器の使用を正当化できてしまうだろう。

 ABC兵器を使ったお陰でこの先犠牲になる人間を救えたなどとは詭弁だ」


「珍しいアメリカ人も居たものだな。

 すっかりアメリカ人てのは、「アメリカの軍隊は世界一ぃぃぃ」とか「真実と正義とアメリカ人(American)覇道(Way)」って粋がっているヤツばかりだと思ってた」


「最近は日本への観光がアメリカでもブームなんだ。

 広島の平和記念会館の見学は人生観を変えるに値するものだった」


「知り合いに広島の被爆者が居るが、ソイツに聞かせてやりてぇよ。

 きっと喜ぶだろう。

 それじゃ行ってくらぁ」


 テイラーに別れを告げ、その足で互助会サポートセンターへと向かった。


 ◇◇◇◇◇


 互助会に着くと、いつもの様に受付窓口に節子が居た。


「すまねえ、リチャードは居るかい?」


「こんにちは勇さん。急にどうしたのですか?

 報酬が少ないとか、建物が老朽化しているから新しいのが欲しくなったとかですか?」


「いや何。リチャードにお願いして、他所の街へ向かう駅馬車に乗せて貰えねぇか頼みてぇんだが」


「本当にどうされたのですか?

 ここが気に入らない事でもあったのですか?」


「いや、それはねーよ。

 ただ俺がやりてぇ事が見つかったんだ。

 だから駅馬車に乗せて貰いたいってリチャードに頼みに来た」


「申し訳御座いません。

 勇さんが何を申されたいのか理解が及びません」


「俺もしち面倒臭ぇ説明は苦手なんだ。

 とりあえず駅馬車に乗って他所の街でこの世を支配しているとかいう『魔王』について聞きてぇんだ」


「『魔法』ですか?

 魔法ならこの街でも使える方はおりますよ?」


「違ぇよ、『魔法』じゃあなくて『魔王』だ。

 自分は女神だっていう姉ーちゃんに言われたんだ。

 この世界を支配している『魔王』をやっつけろってよ」


「女神様に?

 何故、勇さんが?」


「分かんねぇ。

 この世界に来るのをちょいとばかりぐずったら女神がキレちまって、結局何も教えてくれなかったんだ」


「神様を怒らせるなんて、罰当たりが過ぎます!

 謝って来て下さい」


「そうは言っても、もう追い出された身だ。

 謝りようがねぇだろ?」


「ここには女神様をお祀りする神殿があります。

 そこへ行って懺悔して下さい。

 そうしましたら会長にお取次ぎまします」


「わ……分かったよ。

 で、神殿って何処にあるんだ?」


「隣がそうです。今まで気が付かなかったのですか?」


 隣?

 そう言えば、この街の中で一番立派なこの建物だけど通される場所はここだけなんだよな。

 他にも戸があったが、他の場所がどうなっているのか気にした事も無かったぜ。


「神殿? 互助会ここの建物の一部じゃねぇのか?」


「逆です。神殿の一部をお借りして互助会サポートハウスを設置しているのです」


 あー、公民館を借りて町内会をやるみてぇなもんか?

 道理で周りの建物と違う訳だ。


「じゃあ、行ってくらぁ。

 神殿でゴメンナサイって言ってくれば、リチャードに話通してくれるんだろ?」


「真面目にお祈りして下さいね」


「へいへい」


「ハイは一回です!」


「へーい」


 なんだか姉ーちゃんだけじゃなくて、節子も怒らせちまったみてぇだ。

 やっぱ、女は起こらせると怖ぇな。

 『戦後強くなったのは女とストッキング』たぁよく言ったもんだ。

 俺は追い立てられるようにして、神殿へと続く戸を開けた。



これまでのストーリーには変更はありませんが、設定の仕切り直しをしました。


『世界一ぃぃぃ』はご存知の方が多いと思いますが、初出は1989年辺りで今から35年以上昔です。

『truth, justice and the American way』は、出自は宇宙人なのに特定の国の正義を守る"とあるスーパーヒーロー"の台詞です。最新作では別の言葉に置き換わっております。

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