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婚約破棄されたかと思えば、いきなり復縁迫られて…

 月日が経つのは早く、私は本日王立学園を無事卒業。

 今は卒業パーティーに参加中だ。


 パーティーは学園の大広間で行われ、卒業生達の他に保護者も参加しているので、とても賑わっている。

 私は壁際に立ち、楽しそうに話をしている生徒達や保護者達を見ていた。


(学園を卒業してしまった。これから私はワンダー様と結婚の準備を始めなければならない……ルルとも離ればなれになってしまうわ)


 来て欲しくなかった。

 今日という日が来るのを――


「はぁ……」

 本日何度目かわからない溜息を吐き出せば、「アンジュール!」というワンダー様の声が後ろから聞こえてきた。

 彼の声を聞くだけで気が滅入る。

 いつも顔を合わせるたびに、必ず何か言われるから……


 いつもシルビアと比べられ、傷ついてしまう。


 ゆっくり振り返れば、正装しているワンダー様とシルビアの姿が。

 二人とも、恋人同士のようにぴったりと身を寄せている。

 お互いの瞳の色をした宝飾品を身に纏っていて、私とワンダー様が婚約者というよりはワンダー様とシルビアの方が婚約者同士っぽい。


「アンジュール! お前との婚約を破棄する!」

「えっ?」

 突然のワンダー様の通告に対して、私は間の抜けた声を上げてしまう。


 ワンダー様が私の方を指さしながら高らかに宣言したため、周辺にいた人々がざわめく。

 言わずもがな、そのざわめきは波紋のようにまわりにも広がっていった。


 一瞬にして卒業パーティーから婚約破棄パーティーに変わってしまった会場内の空気は最悪だ。

 婚約破棄をするのは構わない。でも、他の人達を巻き込むようなことはするべきではない。

 せっかくのハレの日なのに……


「ワンダー様。今、開催されているのは卒業パーティーです。場所を変えましょう」

「お前、そう言って逃げるのか? そりゃあ、そうだろうな。侯爵家からの縁談なんて伯爵家にとってはおいしい話だし」

「いいえ、違います。せっかくのハレの日の舞台ですから場所を変えましょうとお伝えしたんです。それにこれは両家の評判を貶めるような行為です」

「俺は別にそうは思わないけどな。せっかくだから、俺とシルビアの件を広めたい。お前のせいでシルビアが辛い目にあっているんだ」

「私のせいですか……?」

「そうだ。なぁ、シルビア」

 ワンダー様の言葉に対して、シルビアが頷く。


(私、シルビアとはあまり関わりがないんだけれども……もしかして、気づかぬうちに何かしてしまったの?)

 不安になりながらシルビアが口を開くのを待っていると、彼女はうっすら涙目になりながら言葉を発した。


「他の生徒達からワンダー様にはアンジュール様という婚約者がいるから、ベタベタするのは控えるべきって言われるんですわ。私がワンダー様を好きという気持ちは誰にも止められないのに!」

「それ、私のせいではないのでは……皆、注意して下さっているんだと思いますよ。男爵家のためにも」

 むしろ、注意してくれるだけでも優しいと思う。


「いや、お前のせいだ。お前という婚約者がいるからシルビアが苦しむ。だから、婚約破棄をして本当のパートナーであるシルビアを今日ここでお披露目する!」

「ワンダー様のお父様……ノイ侯爵様達は了承して下さっていますか?」

「お前、馬鹿だな。まだ父上には話をしていないが了承するに決まっている」

「なぜですか?」

 とてもじゃないけど、ワンダー様とシルビアの結婚を侯爵様が許すわけがないと思う。

 そもそも私とワンダー様の婚約は政略結婚。だから両家にとってメリットがあるけど、シルビアの家・男爵家は?

 もしかして、何か男爵家と取り決めが?


「俺は父上の後を継ぎ、次期侯爵となる男だ。父上は絶対に俺の提案をのむだろう」

「――のむわけがないだろ」

 自信満々に言い切ったワンダー様をあざ笑うかのように、突然第三者の声が割って入ってきた。

 この場に居る人々が一斉に声のした方を見れば、ワンダー様のお父様であるノイ侯爵様とトラスト様がいる。

 二人とも、ワンダー様を見ながら深い溜息を吐き出す。


(あれ……? いついらっしゃったのかしら? パーティーが始まる前にご挨拶に伺おうと思って探したんだけど、誰も見かけしていないって言っていたから遅れているのかなって思ったのに)


「申し訳ない、アンジュール嬢。うちの愚息が迷惑をかけて……いや、もう息子じゃないな」

 ノイ侯爵様は私の方を見た後、深く頭を下げると今度はワンダー様の方を見た。

 まるで氷のように冷たい笑みを浮かべているノイ侯爵様に対して、ワンダー様が不思議そうな顔をする。


「もう息子ではないとはどういう意味ですか?」

「本来ならば、パーティーが終わってからお前に話をするつもりだったのに。卒業パーティーで一方的に婚約破棄するとは……呆れる」

「父上?」

「ワンダー。お前のやったことは全て私の耳に入ってきたぞ。アンジュール嬢への仕打ち。お前、婚約者に対してなんて失礼な態度をとっていたんだ! しかも、私に黙って婚約破棄とは……お前の結婚は政治的な意味合いを含むんだぞ。もう、お前には失望した。好きに生きろ。お前は今後侯爵家の敷地に足を踏み入れることは許さない」

「ど、どういう意味ですか? 俺は侯爵家の跡継ぎですよ!?」

「トラストがいる。トラストが侯爵家を継ぐ。資質は問題ない。それにトラストに聞いたぞ? お前、跡取り嫌だったんだろ? よかったな。解放してやる」

「そんな!」

「その女と結婚でもなんでもしろ。もう帰って来なくていいぞ。帰って来てもお前の部屋はもうないからな」

「なぜ俺の部屋がないんですか!?」

「兄上の部屋はスノー達の部屋になりました」

 トラスト様がにこにこと言えば、ワンダー様が訝しげに見た。


「スノーとは誰だ?」

「子猫です。兄上は最近うちに帰って来ていないからご存じないと思いますが、うちで母猫と子猫達を保護したんですよ。一週間ほど前に使用人達から相談を受けていたんです。うちの屋敷内に野良の猫達がいるから保護できないですか? ってね。兄上の部屋を現在改装中です。あぁ、そうでした。兄上が今まで使っていた家具や荷物は離れにあるので、持って行くなり処分するなりどうぞ!」

「はぁ!? 俺の部屋を猫の部屋にするのか!? 俺と猫どっちが大事かわからないのか」

「猫です」

「猫だ」

 トラスト様とノイ侯爵様がきっぱりと断言すれば、周りにいた生徒達からも「どう考えても自業自得だろ」「当然よね。次期当主としての自覚もなかったし」と言う声がちらほら聞こえる。


(トラスト様、猫が好きっておっしゃっていたもんね。でも、侯爵様がワンダー様を勘当するなんて思ってもいなかったわ)


「ち、父上が気にくわないのは、俺のアンジュールへの態度なんですよね?」

 さすがに焦ったのか、ワンダー様の顔色が悪いし、冷や汗をかきながら視線を泳がせている。


「でしたら、今度からちゃんとします! ですから、俺を侯爵家に戻して下さい。アンジュール。俺が悪かった。こっちに来い」

「えっ……」

(侯爵様が言っているのはそういう意味じゃないのに……)

 私は首を左右に振って拒絶したんだけど、その反応にワンダー様が舌打ちをする。

 そして、「アンジュール、さっさとこっちに来い!」と言いながら私の腕に手を伸ばしてしまう。

 けれども、それが私に届く事はなかった。


「アンジュールに触れるな」という低い声と共に私の腰元にぐっと腕を回され、体を後ろに引き寄せられたためワンダー様と距離が出来たからだ。







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